研究課題/領域番号 |
17K02790
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研究機関 | 日本女子大学 |
研究代表者 |
田辺 和子 日本女子大学, 文学部, 教授 (60188357)
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研究分担者 |
井上 史雄 東京外国語大学, その他部局等, 名誉教授 (40011332)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 新丁寧語 / 「っす」用法 / クラスター分析 / 形容詞接続 / 受容度 |
研究実績の概要 |
2020年度においては、新丁寧語「っす」の拡張プロセスの調査と分析を行った。男性・女性 200人ずつを対象に、「っす」の使用範囲と受容度についてアンケート調査を実施し、性別によって「っす」使用の範囲の違いと受容度の違いを考察した。質問内容としては、1.「行くっす」(動詞5段活用現在形接続)2.「食べるっす」(動詞下一段現在形接続)3.「会ったっす」(動詞過去形接続)4.「いいっす」(形容詞接続)5.「受けられないっす」(助動詞可能形否定形接続)6.「持てるっす」(助動詞可能形接続)7.「そうっすか」(「そうです」の「っす形」+か 接続)8.「売れているっす」(アスペクト「ている」接続)9.「噛まれたっす」(助動詞受動態過去形接続)10.「安いっすよ」(形容詞接続および終助詞「よ」を後続にとる)11.「盗まれたっす」(助動詞受動態過去形接続)12.「痛かったっす」(形容詞過去形接続) 13.「いらっしゃるっす」(尊敬語接続)14.「おっしゃったっす」(言い換え敬語接続)15.「いただけるっす」(謙譲語の可能形接続)の15問である。分析方法は、各質問項目の回答をもとに、「っす」の受容パターンにより対象者を分類した(現在は、男性のみ)。「使う」と答えた場合は、1点、「よく聞く」は、2点、「あまり聞かない」は、3点、「全く聞かない」4点として計算し平均値をとって相関関係を調べ Ward法によるクラスター分析を行った。その結果、5つのクラスター(①「おっしゃったっす」以外は、すべての質問に対して、平均値(2.5以下)を示した。②形容詞と動詞の基本形についてのみ、受容を示している。③形容詞と「そうっす」のみ受容を示している。④「いいっすね」のみ受容している。⑤すべての項目について非受容を示す。)が抽出できた。形容詞接続の使用と受容が先行していることが、検証できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
女性対象のアンケート結果をもとにクラスター分析の仕事が課題として残っているが、方法論としては、男性対象とした調査方法に基づいて行えばよいので、大きな計画の実行の遅れではない。元データのクロス集計からみると、女性のほうが全体的に「使う」の比率が非常に低く、形容詞接続でさえ、「使う」と答えた人数は、36人で全体の20%に満たなかった。一方、男性は、117人で半分以上が「使う」と答えている。しかし、「よく聞く」と答えた人は、女性でも123人を占め、「っす」用法に関しては、男性を中心に社会全体への浸透度は高いことが判明した。「行くっす」の動詞接続については、「あまり聞かない」「全く聞かない」と否定的回答をした人数は、男性131人、女性165人であり、一般的には、まだ使用が動詞まで拡張されていないことが認められた。「たべるっす」に関しても、否定的回答は、男性 117人、女性 143名で、「行く」と「たべる」を比較すると 「たべる」のほうの受容がやや高いのではないかという仮説が立てられる。この動詞の浸透度の差異が現れる理由は、使用頻度なのか、活用形の違いによる音韻論的言いやすさや、自然さなのかというのは、今後の課題となるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策としては、1. 女性対象アンケート結果によるクラスター分析を行い、男性と同様に5つのクラスターに同じ基準(「おっしゃる」以外は、すべて受け入れる/ 形容詞も動詞も受け入れる/形容詞のみ受け入れる/「いいっす」「そうっす」のみ受け入れる/すべて受け入れない)で分けられるか。2.各クラスターが示す平均値は、男性と比較してどうなのか。これらの点において、男女の傾向を比較することによって、男性がけん引している「っす」用法の実態を明らかにしたい。また、日本の社会構造変化という観点からの分析としては、対象者を男性の場合は、(ブルーカラー/ホワイトカラー) 女性の場合は、 (正規/非正規労働者)と分けて再調査することも必要だと思う。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染予防対策のため、国際会議に参加する機会を失い、規定年度内に助成金を使うことができなかった。本年度においては、未使用分においては、調査費として使用することを計画している。
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