研究実績の概要 |
2019年度は対訳資料としての「朝鮮資料」の資料性を生かして、原文と対訳文を対照しながら二重否定表現の意味を分析した。未だに不明だった朝鮮語の二重否定表現‘- ji anoel su eops-'の意味を分析するために、日本語対訳コーパスを用いて対照研究を行った。具体的には「21世紀世宗計画コーパス」に出現する‘-ji anoel su eops-’4,563個の用例を分析した。 その結果、‘-ji anoel su eops-’は3つの意味[不可避]、[当為]、[必然発生]として使われたことが分かった。このような意味分化は、‘- ji anoel su eops-'の対訳語として登場する日本語の二重否定表現「~ずにはいられない」「~ざるを得ない」「~なければならない」を通しても裏付けられる。 ‘-ji anoel su eops-’の意味は、文法的・意味的な条件によってそれぞれの意味が区別されるため、共起する主語の人称、動詞の意志性のような資質を考慮する必要がある。具体的には、 (1)文の主語が2人称または3人称の場合、‘-ji anoel su eops-’は[不可避]の意味として実現する。 (2)文の主語が1人称で感情動詞と結合する場合は[必然発生]として、主語が1人称で意志動詞と結合する場合は[当為]の意味として実現する。(3)特に[当為]は、談話レベルにおいて肯定的な文脈で使用された場合に限る。 ‘- ji anoel su eops-'は、(2)で示した動詞以外と結語する時、また否定的、あるいは中立的な文脈で使用された場合には [不可避]の意味として実現する。要するに、[不可避]は文法的・意味的な制約を受けず広範囲に実現するので、[不可避]は‘ -ji anoel su eops-’の基本意味として認められる。このように「朝鮮資料」の原文と対訳文の関係は相互依存的な関係であるので、文法的意味を調べるためにも分析の道具として互いの言語の情報が十分活用できることを確認した。
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