研究実績の概要 |
本研究において、主に進行形と相容れないとされてきた英語の動詞群を範疇化するアスペクト概念としてのStateを追求する為に収集してきた資料(BLでの実地閲覧・撮影・スキャン、国内外図書館からの貸借、Eighteenth Century Collections Onlineで採取、Web検索で閲覧可能ながらもコーパス等では未収蔵・検索不能のテクスト、特に英語・英文法・言語学研究書、及び書簡・随筆・小説・ジャーナル裁判記録などの分野からの実際の使用例等)は、2018年度迄は主として18世紀初旬から19世紀中葉のものまでを対象としたが、2019年度ではそれを21世紀まで拡大し、前後の文脈を捉えつつ、使用における意味を精査した。その過程において、Stativeは、スラブ系言語における動詞の形式に関わる曖昧な概念であり、英語における動詞群を範疇化できるものではないことを示唆する新たな資料として、White (1870), Kruisinga (1915), 細江逸記(1931), Jespersen (1932), Satchell (1939), Zandvoort (1967), van Ek (1969), Wright (2001)等、が多々検出された。いずれも広範な英語資料を、コンテクスト等に照らし意味合いを深く考察した詳細な論述である。これにより、前年度まで進めてきた論考を、更に検証することができた。 2019年度の研究過程で、4月~5月で『認知言語学研究』投稿原稿の校正、7月は10月に刊行された『認知言語学大事典』の担当セクションの最終校正、6月から10月までは、9月開催の第41回福岡認知言語学会及び10月開催の日本英文学会九州支部第72回大会の発表、11月からは3月に投稿した日本英文学研究への原稿執筆等に従事した。
|
今後の研究の推進方策 |
進行形を通時的かつ認知言語学的に探求する意義は、近代初期から使われてきた進行形の使用例を文脈に照らして精査し、その機能の本質を捉え、進行形諸現象を包括的に説明し、構文に絡んできたアスペクト概念を整理することが出来る点にある。それを2020年7月の英国認知言語学学会で発表し、会場オーディエンスからのフィードバックを得つつ、論証の精度を高めたい。方向性としては、stativeは、英語では進行形構文を試金石として捉え得るものではなく、規範文法において進行形になりにくいとされ続けてきた動詞群の意味合いを範疇化する為に追求されてきた概念として見るべきであることを更に掘り下げる。英語の進行形は事態を単純形より短いスパンで捉える為の構文に過ぎない。例えば、genericity(物事の一般性)が進行形と相容れないと感じられるのは、物事の本質として捉えたい一般性を短いスパンにおいて区切って捉える意義が低いからである。これを今後より説得力のある論として行きたい。この観点から、habitual、stative, unbounded, atelic、durational、continuousといったといった、これまでアスペクトに関わってきた様々な用語の曖昧さを具体的に検証し、明確に整理することを目指す。
|