研究課題/領域番号 |
17K02824
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
保坂 道雄 日本大学, 文理学部, 教授 (10229164)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 文法化 |
研究実績の概要 |
現代英語のBE動詞は、本動詞・コピュラ・助動詞等の多様な意味・機能を持っている。本研究は、こうしたBE動詞は英語の通時的過程の中で文法化した結果できたものであるとの前提に立ち、その変化について共時的及び通時的両面から詳細な分析を行うことを目標としている。 今年度の研究は、BE+過去分詞を含む構文について中英語のみを中心に分析を行う予定であった。しかしながら、当初の2年間で既に古英語・中英語のBE+過去分詞の構造についてはある程度考察を進めているため、今年度も昨年度に引き続き古英語から近代英語までの同構造の変化全般について分析を行うこととした。特に、BE+過去分詞の完了用法をHAVE+過去分詞の完了用法と比較し、近代英語以降、急速に衰退する状況を詳細に分析した。その際、言語資料として、Early English Books Online(約7.5億語)、Corpus of Historical American English(約4億語)、Google Books(約4,680億語)の大規模コーパスを主に用いて調査を行った。その結果、1775年から1825年にかけて急速にHAVE完了の頻度が高まり、この間にBE完了からHAVE完了への変遷が起きたことが実証できた。なお、本研究結果は、2020年6月に開催された人工知能学会全国大会(オンライン)、および同年7月に開催された6th International Conference on Computational Social Science(国際学会、オンライン)にて口頭発表を行い、『歴史言語学』第9号、およびEVOLANG XIII Proceedingsにて論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、今年度の研究目標は、中英語におけるBE+過去分詞の受動態構文と完了構文に限定したものであったが、研究業績概要にも記したとおり、前年までにある程度の成果が出ているため、その研究の幅を広げることとした。具体的には、Early English Books Online, Corpus of Historical American English, Google Books等の数億語から数千億語からなるビックデータを使い、BE完了の衰退とその要因について考察を行った。 特に、変化の推移が顕著である19の自動詞を取り上げ、BE+過去分詞とHAVE+過去分詞の相対頻度の時系列を計算し、集団遺伝学の知見を運用して新たな視点からの分析を行った。BE完了の減少とHAVE完了の増加には明らかな方向的な選択圧が存在し、言語進化研究の視点からも興味深い結果を得ることができた。なお、本年度は、新型コロナウィルス感染症の影響で、国内外の学会活動が制限されたため、研究成果の公表が遅滞したことが残念である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画としては、引き続き、各種言語コーパスを利用して、BE+過去分詞・現在分詞の構文の変化について、理論的かつ実証的な考察を行っていく。特に今後は、BEを主要部とする機能投射構造の創発について更なる考察を行う予定である。 なお、本年5月に開催予定である日本英文学会において、「機能範疇の創発原理について」というテーマで研究発表を行う予定である。また、近年注目を浴びている進化言語学の視点も重視し、歴史言語学の新たな研究方法についても更に考察を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、新型コロナウィルス感染症の影響で国内外の学会への出張が制限され、旅費を中心に残金が生じた。本年度の国内外での研究活動に充当する予定である。
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