現代英語のBE動詞は、本動詞・コピュラ・助動詞等の多様な意味・機能を持っている。本研究は、こうしたBE動詞は英語の通時的過程の中で文法化した結果できたものであるとの前提に立ち、その変化について共時的及び通時的両面から詳細な分析を行うことを目標としている。 令和4年度の研究は、中英語及び近代英語のBE+現在分詞・過去分詞を含む構文を対象として研究を行った。また、本年度は研究期間の最終年度にあたるため、英語のBE動詞の文法化に関して総括的な議論をおこない、本研究成果をまとめる準備期間とした。 特に本年度注力した研究は、BE動詞が他の助動詞と共に形作る多重言語構造の分析である。現代英語では、He might have been being bullied.のような多重助動詞構造が観察されるが、古英語や中英語での使用は限定的なものであった。特に古英語では、法助動詞+BE動詞+過去分詞が多勢を占め、その後、完了形や進行形との共起が見られるようになることが確認された。また、通時的言語コーパス(PPCME2及びPPCEME)を用いて、中英語になると、法助動詞+BE/HAVE+過去分詞/現在分詞の語順が大部分を占めるようになり、近代英語では、この語順が固定化したことを検証した。これは、構造的見地からすると、AuxP(法助動詞構造)とPassP(受動態構造)の出現のあと、PerfP(完了形構造)やProgP(進行形構造)が出現したと想定されるものであり、適応的言語進化の1例であると考えられる。こうした点について、令和4年9月に開催された国際会議The Joint Conference on Language Evolutionにて研究成果を発表した。 なお、本研究では、期間全体を通して、各種通時的言語コーパスを言語資料として、「存在」の意味を持つ本動詞としてのBEが、コピュラのBEや受動態、完了形、進行形等を形成する助動詞のBEへと文法化する過程を、実証的に論じることができた。
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