本研究課題は、不変化詞の相関用法が中世英語、とりわけ古英語の韻文における統語法の特色であることを示すこと、現代の「文」の概念とは異なる構造を持ちうる、中世英語の「文」構造を示し、それによって古英語韻文テキストの校訂の発展に具体的に寄与することである。古英語の韻文作品を現代に伝える主要な4写本(Junius、Vercelli、Exeter、Beowulf写本)を研究対象とし、複数の節が統語的に関係して文を構成するさまを考察した。 2017年度の研究ではJunius写本に収められている作品を対象に接続詞nuの相関構文の分析から始め、古英語の韻文作品でもっとも校訂本の多いBeowulfを調査した。相関構文を調査する過程で、parentheses 挿入語句と呼ばれる表現が、節と節とを現代英語とは異なる方法で結びつける、古英語韻文の大きな特徴であるという認識を持つようになった。2018年度は残りのVercelli写本とExeter写本の調査を行うと同時に、挿入語句の研究をさらに進め、国際学会、研究誌での論文発表を行った。 最終年度にはにはまず7月にポーランドで開催された国際英語正教授学会のMedieval Symposiumにおいて、古英語の韻文作品に見られる挿入語句の用例と従来の校訂本における挿入語句の扱いについて報告した。このシンポジウムでの議論の中で受けた有益な指摘や、その後の補足的な自身の研究成果を加えて、2020年6月刊行予定の研究論文にまとめた。挿入語句として、特別な句読法(例えばダッシュ、括弧)で目立つようにこれまでの校訂テキストで示されてきた多くの節は、実は現代英語の「文」の概念に縛られてテキスト校訂を行ったことによって生まれたものであり、節と節とが緩やかにつながる古英語の統語法の中では特別な存在でなかったことを、この研究で示すことができた。
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