研究実績の概要 |
1 英語の動詞句省略(VPE)および関連現象に関する最近の注目すべき理論の比較・検討を行った。 2 英語VPEの先行詞条件諸提案の鍵となった構文に対応する日本語構文のうち、以下のA~F計6種類(各2文)の適格性の判断を5(適格)から1(不適格)までの5段階評価で問う調査を行った。 A-B:自由動詞を主要部とする動詞句(VP)にVPEが適用され、その先行詞を含む目的語が主語より前に「かき混ぜ」によって移動されている文(A:肯定文, B:否定文)、C-D:A-Bと同じだが、「かき混ぜ」が起こっていない文(C:肯定文, D:否定文)、E-F:A-Bと同じだが、VPがそうで代用されている文(E:肯定文, F:否定文)。 日本語母語話者計40人分の有効データ(各構文に対する判定平均値[SD]=A: 2.51[1.24], B: 3.20[1.26], C:1.81[1.21], D: 2.64[1.40], E: 2.21[1.17], F: 2.24[1.12])の分析結果のうち、下記(1)は予測と一致する方向の差異、(2)と(3)は予測に反するものであった。 (1)CよりAの、またDよりBの容認度が有意に高かった。(2)適格であるはずのAの容認度が5段階評価の中間値3より低かった。(3)AよりBの、またCよりDの容認度が有意に高かったが、EとFには容認度の差はなかった。 (3)は、否定文の目的語が「焦点を持つ」と解釈された(C:「M紙が報道したすべての事件をA紙もした」とD:「A紙はM紙が報道したどの事件もしなかった」において、後者の目的語のみが焦点を持ち、VPE適用領域の外にあると解釈された)ことが原因である可能性があり、そうであれば、VPEの適用範囲決定の原理を探る手掛かりとなりうる。VPがそうで代用されているEとFがなぜこの差の影響を受けないのかも含めて、今後の検討課題とする。
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