研究課題/領域番号 |
17K02827
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
高橋 眞理 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (20247779)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動詞句省略 / 先行詞条件 / 「そう」による動詞句の代用 / 自由動詞 / 日本語 / 英語 |
研究実績の概要 |
1 英語の動詞句省略(VPE)および関連現象に関する注目すべき理論の比較・検討を行った。 2 英語VPE先行詞条件諸提案の鍵となった構文に対応する日本語構文のうち、計7構文A~Gの適格性の判断を5(適格)から1(不適格)までの5段階評価で問う2種類の調査を行った。調査1(1)・調査2(2)の対象構文および[日本語母語話者54人・51人分の判定有効データの平均値]、反復測定分散分析の結果の示唆と主な成果(3)~(5)はそれぞれ以下の通りである。 (1) A:自由動詞(FV)を主要部とする動詞句(VP)にVPEが適用され、その先行詞を含む目的語が主語より前方に「かき混ぜ」によって移動されている文[2.38]、B:Aと同じだが「かき混ぜ」が起こっていない文[1.53]、(AとBには昨年度の調査で使用した同一構文の肯定文と否定文を入れ替えて使用)、C:Aと同じだがVPがそうで代用されている文[1.95]、D:Bと同じだがVPがそうで代用されている文[1.09]。 (2) A[2.05]とB[1.59](同上)、E:Aと同じだが前方ではなく後方照応が起こっている文[1.62]、F:Bと同じだが後方照応が起こっている文[2.32]、G:同じFVを述語動詞とする等位接続された2つの節のうち、後方節のFVだけが省略されている(前方gapping)文[1.55]。 (3) A・Bの肯定文と否定文の容認度差は昨年度の調査結果とは逆の方向になった。従って、この差の原因は構文ではなく、個々の文にあると考えられる。(4) 日本語では『前方gapping』は許されない。(5) Fへの判定平均値はEへのそれより有意に高いだけでなく、調査対象構文中最も高かった。これは、調査前の予測に反して「英語の『先行詞に含まれる省略(ACD) 』に類似した省略を後方照応のケースに限って許す日本語話者が存在すること」を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍のため、本研究課題の研究計画の中核を成す、コンピューター実験室に被検者を集めて行う実験を実施することができなかった。 実施することができた小規模の調査は、各調査項目の試行数やfillerの数も少なく、各構文の適格性/容認度の判定に入り込むnoiseを十分に排除できたとは言えないが、昨年度の調査結果の分析で示された肯定文-否定文対の有意差の原因が構文ではなく、使用した文にあったことが判明したこと、また、英語の『先行詞に含まれる省略(Antecedent Contained Deletion, ACD) 』に類似した省略を、後方照応のケース(例:朝日新聞は、毎日新聞がしたすべての事件を報道した。)に限って許す日本語話者が存在する可能性の示唆など、今後の研究の手がかりとなる成果も得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1 引き続き、英語の動詞句省略(VPE)と関連構文の新しい研究成果の整理、および諸理論の比較・分析を行う。 2 引き続き、英語VPEの生起メカニズムと認可条件諸提案の鍵となった構文に対応する日本語構文の整理とそれらの諸特性、意味解釈の可能性、および先行詞条件に関する分析を行う。 3 これまでの実験結果で予想外であった部分の原因分析を行う。また、これまでに調査することができなかったVPE関連構文に関する新しい実験をデザインし、可能であれば実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、コンピューター実験室に被検者を集めて行う実験を実施することができなかった。 実験が可能なら、その準備と実施のための人件費・謝金と、これまでに購入することができなかった機器類の購入に充てたい。
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