研究課題/領域番号 |
17K02829
|
研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
前川 貴史 龍谷大学, 社会学部, 准教授 (50461687)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 統語論 / 名詞句 / HPSG |
研究実績の概要 |
2020年度は2つの研究を行った。 第1に、,[限定詞]+[same]+[名詞]という配列をもつ the same thing などの名詞句を「same NP」と呼び,その統語構造を考察した。same NP には定の解釈を持つものと不定の解釈を持つものが存在する。定解釈の same NP は右枝分かれ構造を持ち,不定解釈のものは左枝分かれの構造をもつ。いずれの構造においても,same は限定詞を義務的に要求し,両者の間には緊密な統語的関係が存在する。このような性質を持つ same NP は,名詞句の統語論に関して非常に興味深い問題を提起する。定解釈の same NP については,構成素構造上では直接的な統語関係にない the と same の間に,どのように限定詞の義務性を保証するかという問題が存在する。また不定解釈の構造では,the same が限定詞性と修飾語性という一見矛盾した性質を持つという問題がある。本論では Head-Driven Phrase Structure Grammar (HPSG) の枠組みを導入することで,この問題に解決を与えた。 第2のトピックは、this size ship など[限定詞]+[size/color]+[名詞]という3つの要素から成り立つ「size 構造」である。この研究では、size 名詞の語彙的性質からsize 構造の示す種々の特殊性を導き出すことで、一般的な名詞句との相違点を捉える。特に、一般的な一致現象のみに焦点を当てた従来の理論言語学では説明がつかない一致パターンを示す複数形限定詞を持つ size 構造に対して自然な説明を与えることができることを示した。また,size 構造は統語的には通常の名詞句と同じタイプの句に属すると分析することによって、特殊性の高い size 構造と一般的な名詞句との連続性が適切に把握できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
これまでの本研究の成果は,口頭発表5本、オンライン発表1本、 論文4本、小論文1本であり、おおむね順調に進展していると言える。しかし、学内の他の業務との関係、また新型コロナウイルスの感染拡大によって学会出張が不可能となったことで、科研費の支出を持ち越すこととなった。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度は、以下のような方策で研究を進める。国内外の研究者との意見交換を行うため、各種の学会や研究会にオンラインで積極的に参加したい。また、主要な学術誌(English Linguistics や Journal of Linguistics など)に本研究のこれまでの成果に基づいて研究論文を投稿する予定である。 それと同時に、必要な文献を読み、研究対象や先行研究についての理解を深めることや、コーパスなどを用いてデータを集めることを継続する。これまでは名詞句の統語論を中心に考察を行ってきたが、今年度は意味的な側面にも考察を広げ、研究の守備範囲を広げていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルス感染症の拡大により,国内・海外出張が予定通りにできなかたため次年度使用額が生じた。2021年度は状況により可能であれば出張を行うが,コロナ禍が収束せず出張ができない事態が続くようであれば,書籍の購入など他の費目に切り替えて使用する。
|