研究課題/領域番号 |
17K02832
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山本 武史 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (40412291)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 子音の重さ / 音節の重さ / Arab Rule / Yod Coalescence / sonorant left capture |
研究実績の概要 |
今年度は主にアメリカ英語において follow, value のような語の語末に見られる母音の弱化を検討した。報告者は以前よりこの現象に注目しており、作成したデータベースから先行する子音が舌頂音、特に流音であるときに弱化が顕著であるという知見を得ていた。しかし、今回改めてデータを検討した結果、先行する子音の条件に加え、先行音節が軽い、すなわち短母音で終わっているという条件も重要であることが分かった。先行音節が重いときには後続音節は弱化せず、先行音節が軽いときには後続音節が弱化するという傾向は Arab Rule として知られているが、そのメカニズムは十分に明らかにされているとは言えない。しかし、上述の母音弱化に先行する舌頂音、特に流音が関わっていることを考慮に入れると、(1) 先行音節が軽い場合にその重さを補うため後続音節の初頭子音が先行音節に再分節され、その結果として後続音節が弱化されること、および、(2) 再分節は当該の子音が軽いほど起こりやすいことが導き出される。この見方は前年度に assume, caesura, commissure のような語における Yod Coalescence を、後続音節が相対的に強い強勢を持つにもかかわらず成節子音が形成される現象を説明するために先行研究で提唱されている sonorant left capture と同様、相対的に軽い子音である歯茎摩擦音が先行音節に引き寄せられることによって引き起こされるとした分析とも合致するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画とは異なっている部分もあるが、関連があると見なしていなかった現象と本研究課題との繋がりが見出されるなど予想外の成果もあった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の計画に含めながらも扱うことができなかった接尾辞付加と強勢の関係について引き続き考えたい。前年度に検討した形容詞形成接尾辞 -al と同様にラテン語強勢規則に従うとされている形容詞形成接尾辞 -ous は -al とは少し異なる振る舞いをすることが報告者のこれまでの研究等から分かっており、また同じく形容詞形成接尾辞である -ic がラテン語強勢規則に従わないことは広く知られている。接尾辞が強勢に与えるこのような影響が接尾辞そのものの音韻構造に帰着可能かどうかを検討したい。1音節の接尾辞の音韻構造が強勢に影響を与えるとする考え方は語末音節を韻律外として強勢位置を計算するラテン語強勢規則とは明らかに相容れず、英語の強勢の多くの部分がこの規則に支配されているという広く受け入れられている考え方を見直すことにつながる可能性もある。前々年度に行った韻律外性についての考察とともに分節素の重さと強勢の関係について一定の結論を出したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の蔓延に伴い旅費の支出がなく、また授業や校務の負担の増加で研究に費やす時間が大幅に減少したことによる。次年度に繰り越した基金は購入予定であった物品でまだ未購入のものや研究の進展に伴って新たに必要性が生じた物品を順次購入するために使用する。学会等のオンライン開催等により必要性がなくなった旅費は物品費や人件費に充てることも検討する。
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