研究課題/領域番号 |
17K02836
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 勢紀子 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 教授 (20205925)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 日本語学習者 / 文語文 / 古典学習 / e-learning / 教材開発 / 教授法 |
研究実績の概要 |
1.既に作成した試作版e-learning教材(5課分)を科研メンバーの担当する古典入門の授業や古典を用いた文学の授業で試用し、開発教材をどのように授業に取り入れて活用するかについて検討した。また、受講者を中心とする中・上級日本語学習者に教材を試用してもらった。 2.教材試用に関して、上記1の授業の受講者を中心に紙媒体およびウェブによるアンケート調査を行った。素材セクションについては、①本文、②問題、③現代語訳のページごとに感想・提案の記述を求めるとともに、問題(小テスト)の難易度、取り上げてほしい素材について質問した。参照セクションについても項目ごとに記述を求めた。教材全体については、よい点、改善を要する点を記入してもらった。 3.中・上級の外国人留学生を対象に、従来の古典入門の授業に加えて、古文入門の授業を新たに開講し、学習者に古典文法の基礎を教えるシラバス、教授法の開発を試みた。 4.上記2の調査結果から得られた指針および3の授業実践から得られた知見にもとづき、既存の試作版教材を改善するとともに、新たに5課分の教材(『徒然草』、『一寸法師』、正岡子規『はて知らずの記』による)を作成した。全体として作品のジャンル、文体、時代に関してヴァラエティに富む構成となるように配慮した。同時に、参照セクションの文法解説を補い、語彙リストを拡充した。 5.試作版開発教材およびその試用結果に関する研究成果を関連学会(2017年度日本語教育と日本学研究国際シンポジウム、5月13日、於同済大学、2017EAJS、9月2日、於Universidade Nova de Lisboa、日本文学協会第72回大会、於相模女子大学) にて発表し、教材について国内外の関係者に広く周知し、教材や教授法についての意見や要望を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究計画としては、当初、1) 既存の試作版教材の試用、2) 試作版教材についてのアンケート調査、3) 試作版教材についてのインタビュー調査、4) 調査結果を反映した教材の改善および増設、5) 研究成果の国内外での公表を考えていた。 このうち1)、2)、4)、5)については、ほぼ計画どおりに遂行することができた。3)のインタビュー調査は、2)のアンケート調査の結果から必要な情報が得られたと判断し、実施しなかった。その代りに、これまで実施していた外国人留学生向けの「古典入門」の授業に加えて、新しく「古文入門」の授業を開講し、日本語学習者を対象に文語文法の基礎を教授するシラバスおよび教授法の開発を試みた。この教育実践を通じて、開発教材の参照セクションにある文法解説ページを拡充していく上での様々なヒントが得られた。
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今後の研究の推進方策 |
1.前年度に続き教材作成を行ない、e-learningサイトに載せる。5課分を加えて教材のシリーズ1(全15課)を完成させ、さらに5課分を作成することを目標とする。素材の選定においては、将来的に作成する計画のシリーズ5までの教材も視野に入れ、「複合教材」として学習できるようにすることを考慮に入れる。参照セクションについては、特に文法解説および語彙リストを充実させるとともに、著作権に配慮しつつ、資料集、コラム集を拡充する。教材全体の必要な部分に英語訳等外国語訳を付ける。教材のシリーズ1が完成し、参照セクションの各ページも整った時点で、サイトを一般に公開し、広く文語文学習あるいは文語文教育に関心を持つ国内外の学習者や日本語教師の利用に供する。 2.開発したe-learning教材を科研メンバーが担当する授業で使用し、またサイトの利用者から感想や意見を集約して、本教材を利用した文語文教授法を開発する。また、学習者が本教材を用いて文語文を独習する場合の効果的な学習方法についても検討する。 3.上記3で開発した教授法、考案した学習法にもとづき、本教材を利用する日本語教師や日本語学習者(独習者)のガイドとなる手引き(教材の使い方の説明)を作成し、サイトに載せる。また、作成したガイドについて、英語版等外国語版も作成し、利用者の便宜を図る。 4.日本語文語文学習や古典学習に関する関連サイトの制作者と連絡をとり、許可が得られればリンクを張り、本教材のサイトを文語文指導、文語文学習のベースとして使用できるようにして、利用者の便宜を図る。 5.文語文e-learning教材開発および教授法開発についての研究成果を関連学会の大会、学術誌上で発表するとともに、研究成果の報告会を兼ねてパネルディスカッションもしくはセミナーを公開で開催し、本科研での研究成果を一般市民にも広く知らせる機会を設ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
1) 当初、旅費として970,000円を計上していたが、海外での国際学会発表のための旅費(3名分)のうち、1名分は他の海外渡航補助金を利用、1名分は当人の所属機関から支出されたため、1名分の支出で済んだ。次年度はこの分を利用して、9月にクロアチアのプーラ大学で開催されるシンポジウム・日本語教師連絡会に参加し、発表を行う予定である。 2) 当初の計画では、開発した試作版文語文e-learning教材についてのインタビュー調査を予定していたが、アンケート調査のみで十分と判断されたため、インタビュー調査を行わなかった。その結果、調査に要する謝金を支出しなかった。この分の謝金については、次年度以降での教材作成に当てることを計画している。 3) 本年度に新たに開発した5つの教材については、本体は掲載したが、イメージイラストの作成・掲載は次年度以降に延期したため、その分の謝金を支出しなかった。『一寸法師』の3教材については、古活字本の挿絵を使用することを検討中である。『徒然草』および『はて知らずの記』の教材のイラストについては、次年度にイラストレーターに依頼し、作成する計画である。
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