研究実績の概要 |
本研究は,幼少時から日本に定住・長期滞在している子どもの第二言語(L2)としての日本語力に焦点を当てる。日本で生まれ育ち,日本の学校教育を受けている子どもたちの日本語は非常に流暢ではあるが,実は弱点もあることを研究代表者のこれまでの研究では明らかにしてきた。 欧米では,移住時の年齢が異なる移民が現地語として習得するL2能力(最終到達度)について,臨界期仮説の枠組みの中で多数の研究が行われており,近年は,幼少時の移民が必ずしも母語話者と同じ能力を身につけるわけではないという報告が見られる。ただし,多言語話者が持つ複数の言語の一方だけを見て,モノリンガルの基準で「母語話者と同じ」かどうかを判断することには異論もある(Cook,1991, 2016;Davies, 2003; 2013)。 本研究では,多言語話者の特徴は踏まえた上で(モノリンガルの)母語話者の誰もが持っている基本的な言語知識を持ち合わせていないことは,憂慮すべきであると考える。なぜなら本研究が対象とするL2日本語話者は,日本語モノリンガルの子どもと共に学校教育を受けており,現状ではL2話者・多言語話者であることへの配慮はなされていないと考えるからである。 臨界期仮説を検証した研究は,上述の通り欧米での研究が大半である。幼少時からの移民にとっても習得が難しい具体的な言語項目となると,その答えは言語によって異なるが,言語項目のどのような特徴によって習得が困難なのかという議論(DeKeyser, 2005, 2012他)は,日本語にも応用可能である。 2年目であるH30年度は,調査対象とする言語項目を助詞と決定した上で,調査用資料(助詞テスト)を作成し,日本語を第二言語とする子どもが多く通う公立小学校において,全校調査(2校,計1300名)を実施した。
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