研究課題/領域番号 |
17K02885
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
保田 幸子 神戸大学, 大学教育推進機構, 教授 (60386703)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | CLIL / 内容言語統合型学習 / 英語教育 / ライティング能力 / EFL Writing / Young Learners / Voice / 小学校英語教育 |
研究実績の概要 |
本研究は,ヨーロッパの小学校外国語活動においてその効果が実証されているCLIL(Content and Language Integrated Learning, 内容言語統合型学習)が小学校における外国語指導法の考案と改革において重要な鍵を握ると考え,日本の小学校の英語教育における実践を通して,その効果を「ライティング能力(書く 力)」に着目し,縦断的に検証することを目的とし実施された.研究参加者は,CLILを導入し5年の実績を持つ日本国内の私立小学校において,CLILコースで教科と英語を学ぶ学習者(CLILグループ)と, 通常コースで教科と英語を学ぶ学習者(Non-CLILグループ)である.児童の英語ライティング能力の発達を調査す るために,特定の状況で特定の読み手に向けて英語で手紙を書くというタスクをデザインした. データ分析の結果,正確性においては2グループで意味のある差は見られなかったものの,(i) 書き手のVoice(EngagementやAttitude),(ii)結束性という二つ の点において,CLILコースで学ぶ児童の方が読み手を意識した豊かな表現を取り入れていることが分かった.具体的には,(1) 結語の使用(Take care, See you soon等),(2) 自己中心視点(I want, I like)から他者視点への移行(People are, They are等),(3)代名詞の使用による結束性である.これらの意味形成上の変化は,ライティング能力の評価で一般に使用されているルーブリックには含まれておらず,数値による量的なライティング能力測定において見落とされ てきた質的な特徴である.本研究の成果は,CLILアプローチが児童のライティング能力の育成に寄与する可能性に加え,「年齢に応じた書く力の発達の測定方 法についても重要な示唆を与えている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究開始年度の2017年から2018年,2019年にかけて,データ収集と分析を計画的に実施し,その成果を発表・公開することができた.研究成果は,国内のみならず,アメリ カ,オーストラリア,バンコク,カンボジアなど北米,アジア・太平洋地域で開催された国際学会でも発表し,外国語によるライティング能力の発達と評価とい う共通の研究課題に関心を持つ研究者や現場の教師と学術的交流を進めることができた.本研究成果についての論文は,TESOL Quarterly,System,TESL Ontario, JALT Journal という査読付きの国際ジャーナルに掲載された.2020年度は,日本の高等教育機関でCLILプログラムを担当する教員のビリーフ調査を実施する予定であったが,コロナウィルス感染拡大により対面でのインタビューが困難になり計画変更を余儀なくされた.コロナ感染が落ち着いてきた2020年秋より遠隔でのインタビュー調査を開始し,データを取りまとめている段階である.
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今後の研究の推進方策 |
上述したように,2017年度~2019年度まで順調にデータ収集・分析を進め,成果についても国内・国外で発表を行ってきた.2020年度は,日本の高等教育機関でCLIL教育を実践している教員に対してインタビュー調査を実施し,日本におけるCLILの理解,実践状況を把握する計画であったが,コロナウィルス感染拡大により,インタビュー調査の実施が困難となった.2021年度は,コロナウィルス感染の状況を鑑みながら,対面と遠隔の併用の形でインタビュー調査を実施し,データを収集し,分析を進める計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年初めよりコロナウィルス感染者が世界各国に広がり,2020年度内に当該研究の成果発表を行う予定だった国際学会が開催中止となった.加えて,実施予定だったインタビュー調査,研究遂行 のために必要な打ち合わせも全て中止・延期となった.こうした理由により,次年度使用額が発生した. コロナウィルス感染拡大が終息し,国際学会が開催できるようになれば,国際学会参加のためぜひ当該研究費を使用させていただきたい.また,都道府県をまたぐ移動が可能になれば,研究遂行に必要な打ち合わせや調査を行うための費用として使用させていただきたい.
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