研究課題/領域番号 |
17K02936
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研究機関 | 岡山県立大学 |
研究代表者 |
杉村 藍 岡山県立大学, 情報工学部, 教授 (10290181)
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研究分担者 |
武岡 さおり 名古屋女子大学短期大学部, その他部局等, 講師 (10413288)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Web英語教授法 / プレゼンテーション / ピアレビュー / e-portfolio |
研究実績の概要 |
日本の英語教育は、高校受験、大学受験に向けた受験対策が主流を占める時期が長く続いた。その後、社会や経済の国際化が急速に進んだことにより、それまでの受験中心から「日常生活や仕事の現場で使える英語」を目指す動きが生まれて久しい。2003年には、文部科学省が「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」を策定し、国際的共通語としての英語を用いたコミュニケーション能力を身につけることが不可欠であると訴えている。国際化社会において、情報を入手、理解するだけでなく、発信する英語力が求められている。 本研究では、予備学習として英語4技能を高めながら、大学生および大学院生が国際会議での研究発表に対応できるプレゼンテーション能力を育成することを目標にしている。そのための「英語プレゼンテーション学習支援システム」の設計開発を前年度までに完了させた。このシステムは授業内で用いる「授業内学習」と授業外で学生が個別に、または小グループで利用(ピアレビュー)するための「授業外学習」の大きく2つのモードから成る。当初、両モードとも研究期間内に完成、運用する予定であったが、当該年度はそのうち「授業内学習」モードを中心に完成させた。これは、搭載した3種類の e-portfolio 機能のうち、録画したプレゼンテーションと同期を取って評価を表示する「Web動的評価」機能の開発に想定していた以上に時間がかかったためである。実際の授業への導入実験のスケジュールから逆算し、今年度は単独でも利用できる「授業内学習」モードに集中することを決断した。 後期に大学院で開講している「テクニカル・プレゼンテーション演習」の授業に本システムを導入し、動作実験を行ないながら、実際に使用した学生たちに操作方法も含めたアンケートを取った。実験結果や学生のアンケートに基づいて修正を重ねた結果、安定して運用できるまでになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「英語プレゼンテーション学習支援システム」の授業内学習モードには、「Web動的評価」「プレゼンテーション終了時評価」「コメント評価」の3種類の評価方法が搭載されている。様々なタイミング、そして多様な評価内容を併用することで、発表者により多くの、そして的確なフィードバックを実現するためである。 効果的な e-portfolio 評価に向けた教育指導法の中で最も開発に時間を要したのは「Web動的評価」であった。これは、授業内学習において受講者が発表者と評価者に分かれ、発表者がプレゼンテーションしている様子をビデオカメラで録画し、それと同時進行で評価者が評価を行なうものである。受講者が発表するだけでなく、評価する側の立場も験するものであり、そこから学ぶべき点は多い。しかし、この e-portfolio 評価法は新たな教育指導法開発の中心となる独自な評価法であったため、当初想定していた以上に複雑な仕組みになってしまった。 具体的には、録画後に動画を再生しながら、それと同期を取って評価結果を画面に表示し、プレゼンテーションのどの部分が高く評価されている、あるいは評価されていないかを確認できるというものである。この評価法には、プレゼンテーションにおいて改善が必要な箇所、そして何に関して改善が必要であるかをピンポイントで把握できるという優れた利点がある。 「Web動的評価」の開発には予想以上に労力がかかってしまったが、この評価法は今後開発する授業外学習モードにおいても、発表者が個人練習で用いたり、受講者同士で評価し合う(ピア・ディスカッション)ためにも必要な重要な機能である。本システムを用いたプレゼンテーション指導法開発のためにも、十分な検討を重ねて開発する必要があったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究における教育指導法は、受講者を発表者と評価者という異なる立場から学ぶ手法、プレゼンテーションと同期したリアルタイムな評価、そして e-portfolio 評価による独自の分析法の開発などにより、海外の研究者からも関心を集めている。開発した「授業内学習」モードについて、研究代表者の杉村が留学中に指導を受けたイギリス、リーズ大学のLanguage Zoneの担当教授と研究打ち合わせのためにイギリス出張を予定していた。しかし、新型コロナウィルス感染症予防のため、双方で話し合いの上、取りやめを決めた。令和2年度に状況が好転した場合は出張できるよう、そのための旅費を延長申請している。 イギリス出張が可能になった場合、実際にシステムを操作しながら、今回の開発で最も難しかった「Web動的評価」について打ち合わせを行なう予定である。これは、今後実装する「授業外学習」モードにも大きく関わってくる部分であり、動画と同期を取るだけでなく、実際に評価された項目の詳細の記録をどのように取り、また表示するかという問題を解決しておきたい。 プレゼンテーションと同期させた「Web動的評価」は、報告者独自のアイディアであり、従来の評価法と組み合わせた教育効果には大きな期待を寄せている。今後、開発した評価法、教授法を学会等で広く公開する準備を進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症予防のため、当初予定していたイギリス、リーズ大学への出張を先方とも協議のうえ次年度に延期することとした。状況をみながら、2021年の初め頃を目処に出張する計画をしている。
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