本研究の第一の目的は、英語学習者の持つ形態統語論的知識と定型表現の知識を反映する音韻的作動記憶の測定方法として、「平均連続認知語数」(MLPC: Mean Length of Perceptual Chunks)という新たな指標を提案し、その妥当性について検証することである。大学生51名に対し、1)MLPCを測定するための筆記・口頭ディクテーションテスト、2)統語知識・文法知識・定型表現知識を測定するための文産出テスト、3)リスニングスパンタスク(LST)、4)TOEICリスニングテストを行い、指標間の関係性を分析した。第二の目的はMLPCが音韻的作動記憶容量の測定手段としてだけでなく、教授用タスクとしても機能することを明らかにすることである。MLPCを伸ばすためのタスクとして、授業内で15週にわたり、1)スキットを用いた口頭繰り返しペア活動、2)Read & Lookup、3)フレーズ再生タスク、4)グループディクテーションを行った。本研究により以下の点が明らかとなった。 (1)英文の連続認知語数はリスニングスパンテストに比べ、リスニング能力の分散をよりよく予測できる。(2)リスニングスパンテストにより得られる英文正誤判断エラー率、正誤判断速度、保持単語数はいずれもリスニングとの相関は無かったが、三指標の合成得点とは中程度の相関が得られた。(3)連続認知語数は学習者の形態統語論的知識によって予測できる一方、リスニングスパンテストはわずかにしか予測されない。(4)連続認知語数は15週間の訓練によって伸ばすことができる。(5)連続認知語数を伸ばすための教授タスクは、学習者に明確な目標を提示すると共に明確なフィードバックを与えられるため、学習者のモチベーション向上につながる。
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