研究課題/領域番号 |
17K02975
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
柳井 智彦 大分大学, 教育学部, 教授 (60136025)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 英文のプラニング / 動詞と主語 / 心理言語学 / 英語教育 / 絵の描写 / 描写容易性 |
研究実績の概要 |
筆者は,日本人が英語で絵を口頭描写するときに,どのようなプラニング(発話計画)が生起するのかを,特に動詞の役割に着目して心理言語学実験により検証してきた。しかし,実験方法として,学習者には不慣れなRSVP法(文の要素を別々の絵に分解して順次提示)を用いてきた。本研究では,学習者に馴染みのある絵描写課題(事象が分解されず,1枚にすべて描かれている絵)を用いて,動詞及び主語をプラニングすることが発話開始までの時間(反応時間)に及ぼす影響を検証する。 初年度は,描写する絵を短時間(2秒)見せて動詞または主語を決めさせ(プレビュー法),再び同じ絵を見せて描写を開始させるという方法で実験した。実験要因は「プレビュー時に決める文要素(動詞か主語か)),及び「絵の描写容易性」の2つであり,従属変数として反応時間,発話継続時間,発話の正確性を測定した。 2年目である平成30年度は,2つのことを行った。一つは初年度の実験結果の発表と論文化であり,二つ目は新たな実験の実施である。一つ目については,全国英語教育学会で口頭発表した後,英語で論文化した。論文はARELE (Annual Review of English Language Education)に採択・掲載された(Vol. 30, 2019年3月)。主な結果であるが,反応時間にのみ有意な差が生じた。しかし,要因に交互作用が見られ,描写が容易な絵については動詞・主語のプラニングには差は見られなかったが,描写が困難な絵に関しては動詞をプラニングしようとすると反応が大変遅くなった。2つ目については,次の課題を検討するための実験を行った。①訓練を実施すると反応時間は変化するか,②タイムリミットを設定すると反応時間は変化するか,の2点である。分析は完了していないが,タイムリミットの設定に効果があるという感触を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定通りに実験を実施し,ほぼ予測通りの結果を得つつある。査読付き全国誌であるARELEに採択されたことは,本研究の独創性が認められたと考える。しかし,初年度の実験は何ら訓練を課さないで実施したため,教育作用による変容は検証していない。そこで,2年目は自作のパソコン教材を使って絵描写の反応時間を早めるような訓練を実施した。その効果は検証中であるが,タイムプレッシャーつまり時間制限を課すことの有効性が感じられる。この方面に関するDamian & Dumay (2007)などの文献研究を勧めるとともに,実験室だけでなく教室で行い得る学習形態の工夫をさらに追及したい。
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今後の研究の推進方策 |
上述のとおり,最終年度は英語による絵描写を加速させるような授業方式を実施する予定である。具体的には,同じ絵の描写を複数回繰り返す活動(task repetition)を授業に組み込み,描写時間を縮小していく(30秒→20秒など)。このことを継続することによって,話すべき内容を効率的に処理するためのストラテジーを体得するのではないかと予想する。活動の効果は最終的には,初見の絵を描写するテストの結果で判断する。すなわち,単位時間(1分など)あたりの発話量が増大しているかを観察する。なお,昨年度の授業の様子から,活動はペアやグループの学習を多用したアクティブ・ラーニングの形態が適していると思われたため,本年度もその形で実施する。なお,2年目,3年目の結果は九州英語教育学会で発表する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)次年度(最終年度)には,日常授業において反応を加速するような授業方式を計画した。結果は録音した音声の分析によって行うが,その効果は過去の異なる授業方式で得られた音声との比較によって行う。しかし,過去の音声の文字化等は十分にはできていないため,計画当初よりも量の多い音声分析が必要となる。そのための謝金や物品費を要すると見込まれたため。 (使用計画)次年度分として請求している100,000円と合わせて,新旧の授業方式から得られた音声データの分析を行うため,分析補助の謝金及び音声関連の物品費として使用する。また,学会発表の旅費として使用する。
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