研究課題/領域番号 |
17K02994
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
八島 智子 関西大学, 外国語学部, 教授 (60210233)
|
研究分担者 |
守崎 誠一 関西大学, 外国語学部, 教授 (30347520)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 英語コミュニケーション能力 / 自発的コミュニケーション(WTC) / 理想自己(Ideal L2 self) / アジア圏留学 / トランスランゲージング / L3学習動機 |
研究実績の概要 |
日本の教育機関は、若者が異文化と接触を通して学ぶ機会を作る努力をしており、その形態は、夏季研修、カリキュラムの一部としてのスタディアブロードなど多様化している。そういう中で、アジア圏での教育的交流のような新しい形態の異文化接触の実態を明らかにすると同時に、効果を検証することが本研究の目的である。 当該年度は、新型コロナ感染が広まった影響で、多くのプログラムがキャンセルとなり、スタディ・アブロードもオンラインで行うなど、本来の研究ができにくい環境にあった。このため、台湾における教育交流参加者を対象にすでに収集したデータの分析、論文の執筆・投稿などに時間を使った。面接調査とウェブによる質問紙調査を中心に、1)英語、中国語の使用状況の詳細の調査(どのような場面で、誰と英語・中国語・日本語のどの言語をどれぐらいの時間使うか)2)英語・中国語の相対的な重要度やそれぞれの言語への動機づけの変化、3)自己概念との関連で、英語を使う「理想自己」「義務自己」及び中国語を使う「理想自己(Ideal L2 self)」「義務自己」の形成について、時間軸という観点を加えて分析を深めていった。その結果を国際誌で発表、また台湾の研究者が編纂した書籍のチャプターとして執筆した。 一方、量的研究と質的研究の融合を特色とする本研究において、方法論の探究も一つの課題であった。この意味で、上記の論文において、インタビューデータ分析の新たな方法として、複雑系の影響を受けた考え方である、ミクロジェネティック・メソジェネティック・オントジェネティックという3つの時間軸からの分析を提案したことは特筆に値する。 さらに、スタディ・アブロードなど異文化接触による英語での対話力(英語コミュニケーションの技術面・心理面)と国際的志向性が変化するか、という点については、これまでの分析により、一定の変化が確認できている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前述の通り、コロナ禍の中で、海外派遣プログラムそのものの中止や遅延、インタビューをすることの困難さなどが原因で、異文化コミュニケーション関連の研究は極めて進行が難しい状況が続いている。2020年8月にシンポジウム発表を予定していた国内学会の開催が中止となるなど、活動の変更を余儀なくされる事態が続いている。ただすでに収集したデータについて、分析を深め、国際誌や海外で刊行された書籍などの投稿は、順調に進めることができた。世界的なパンデミックの影響で、査読プロセスにも遅延が生じ、出版に至るまで通常より時間はかかったものの、順調に採択が進んだ。例年発表する国際学会については中止になるか、オンラインでの実施のため時差が大きく参加できないなどの影響も続いている。一方、世界各地に奨学金を得て派遣される若者を対象にした、公的な留学プログラムの効果の検証チームにも参加してきたが、このプログラムでは量的分析の一部が可能になっている。
|
今後の研究の推進方策 |
多くのデータを入手するのが困難な状況では、これまでの留学経験者少数を対象とした質的研究を中心として分析を進める。すでに参加者の心理状況や、言語使用状況、言語習得上の課題などが明確になりつつあるが、さらにその実態と成果の様相と課題を最終報告に向けて明確にしていきたい。一方で、英語でのコミュニケーション、Willingness to communicate (WTC)、対話力に関係する心理的・技術的側面の変化については、多様な方法でアプローチしていく。 研究法において、時間軸の異なる3つの視点からインタビュー・データを分析し、言語学習への動機付けが時間経過と共に変化するプロセスを提示する方法を提案したが、これについて、対象を広げ方法論的に洗練させていく。またスタディ・アブロードに関して蓄積したデータをメタ分析することで、これまでの知見を整理していくことも重要な活動と考える。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況については、すでに述べた通り、主に新型コロナ感染拡大の影響で、執行が大幅に遅れている。特に予定していた、成果発表のための海外出張や研究者の招聘が全く不可能であること、関連の国内学会は全て中止もしくは、オンラインでの開催であり、旅費の執行の必要がなかったことなどが挙げられる。 次年度についても、現時点において、緊急事態宣言の発動中であり移動に制限があることから、先が見通せない状況である。シンポジウムの企画も視野に入れているが、オンラインになる可能性が高く旅費は執行できないが、謝金を出す可能性はある。現在オンラインでのデータ収集を考えており、そのプログラム作成経費を執行する予定である。またデータ分析補助業務に対する謝金や、論文執筆の英文校閲のための謝金の執行も予定している。
|