研究課題/領域番号 |
17K02999
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研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
木津 弥佳 (田中) ノートルダム清心女子大学, 文学部, 教授 (00759037)
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研究分担者 |
行木 瑛子 国際教養大学, 国際教養学部, 助教 (40781208)
ドーティ パトリック 国際教養大学, 国際教養学部, 教授 (50438256)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 第二言語語用論 / モダリティ / 認識的スタンス |
研究実績の概要 |
本研究は、外国語としての日本語(JFL)、英語(EFL)を学ぶそれぞれの学習者が、日本または英語圏への留学を通してどのように目標言語を習得するのかについて、モダリティと呼ばれる言語形式の使用に着目して調査・分析するものである。2018年度中にJFLを単独で分析する研究が終了していたため、2019年度は、前年度に前倒しで調査が完了したEFLインタビューデータの書き起こしとコード化、インタビューデータとアンケート調査、Pearsonスピーキング能力テストのそれぞれの結果を集計、分析することに集中した。インタビューデータのコード化と集計・分析については、2019年6月までに一旦終えており、その結果をもとに、海外での国際学会と国内の研究会等での発表を行った。その後、これらの学会等での他の研究者からの有益なフィードバックを受け、インタビューデータのコード化を見直す作業を8月から9月にかけて実施し、研究分担者らと複数回にわたる協議を経て、11月から12月の間に再分析を施した。 再分析後の研究成果については、2020年1月から3月の期間中に研究分担者とともに論文としてまとめ、言語科学会(JSLS)ならびにTESOL Arabiaの大会発表要旨として投稿したが、コロナ禍によりJSLSは大会が中止(発表論文審査も中止)となり、発表採択が確定したTESOL Arabiaは開催が2020年度に延期されることとなった。またこれらの活動と並行して、再分析後のより詳細な成果を英語の研究論文としてまとめ上げ、2020年3月に国際学術雑誌であるApplied Pragmaticsへ投稿することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
JFLデータの分析に関しては、2018年度中に完了しており、2019年度はEFLデータのみを扱うこととした。2019年6月までに行った分析では、認識的スタンスを表す言語形式として談話標識も含むより広範囲な形式を研究対象としていたが、その後の他研究者からの助言を受けて、分析すべき言語形式からヘッジと呼ばれる談話標識は外し、Biber他 (1999)を基にした認識的スタンス形式のみに着目して大幅に分析し直すこととなった。また、EFL学習者を当該言語形式の使用頻度により二つのグループにわけて、それぞれのグループの特徴を量的に割り出すと共に、個々の学習者を質的に観察・分析することも行った。結果としては、関連する先行研究でもすでに指摘されている通り、スピーキング力が比較して低いグループは、高いグループと比較して、認識的スタンスを表す場合に語彙的表現の動詞や副詞に頼る傾向が観察された。 認識的スタンスの表明は、会話で適切なコミュニケーションを生み出すために大きな役割を担っており、その習得は目標言語の典型を形作る重要な一部であると考えられる。英語においては、的確な法助動詞やそれに準ずる表現を豊かに使いこなすことが、より正確で洗練された高度な言語活動へと導くことを意味するとすれば、偏った形式の使用よりも多様な形式の使用を促す必要があるといえる。しかしながら、今回の調査結果を個別に観察したところ、使用する認識的スタンス形式については個人差も大きく、また使用頻度が高くなっていることがその形式の習得を発達させているとは言えないことがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
すでに述べた通り、JFL/EFLとも調査と分析は完了しており、それぞれの研究成果については学会発表や学術雑誌への投稿や上梓がなされている状態である。2020年度は延期された学会でのEFLに関する発表、ならびにすでに投稿したEFLについての論文の書き直しを行うとともに、2019年度に十分な検討がなされなかった母語話者との比較分析(どのような発達段階を経て目標言語の母語話者の言語運用に近づいていくのか)と外国語教育の現場におけるより効果的な教授方法(どの段階で何を教えるべきか、または教えなくてもよいか)についてより深く考察していく。 さらに、JFLとELFを独立した事象として扱うだけではなく、双方の研究分析を発展させて比較した論文の執筆と発表を目指している。特に、認識的スタンス形式の中でもJFL, ELFともに頻度の高い「と思う/I think」という形式に注目し、学習者の使用の特徴をそれぞれの母語話者の使用(データ収集済み)と比較するとともに、JFL学習者とEFL学習者の両者に第二言語学習者として共通する振る舞いが観察されるかどうかを、中間言語語用論の観点から探っていき、本研究の総まとめとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度6月に学会で発表した折、他の研究者から有益なフィードバックを得ることができ、それによりEFLインタビューデータを再分析する必要性が生じた。再分析にあたっては、EFLデータのコード化からやり直すことが前提となっており、想定外の時間と労力を費やすこととなった。結果としては、精緻な分析を施すことによって、より質の高い論文を作成することが可能となったが、年度末の段階では十分な成果発表ができなかったため、次年度に持ち越すことを決めた。また、2020年3月に発表を予定していた国際学会がコロナ禍により延期されたため、次年度に発表を行う予定である。
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