研究課題/領域番号 |
17K03025
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
川嶋 正士 日本大学, 工学部, 教授 (50248720)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 5文型 / 統語分析 / 英語教育史 / 規範文法 / 細江逸記 / 検定教科書 |
研究実績の概要 |
平成30年度も、引き続き科研費の援助を受けた資料調査のおかげで予定以上の成果を上げることができた。文字化された成果は有審査論文3本、無審査書評(依頼原稿)1本であった。 口頭発表は、国際大会1回、国内2回(うち1回は招待発表)であった。以下、概要を報告する。 3本の論文はすべて日本学術会議協力研究団体に査読論文として採用されたものである。これらは、海外で調査・研究した資料に基づく。英国で19世紀末に誕生し、受容されることなく消滅した「5文型」が日本において紹介された経緯を研究したものである。無審査であるが中村捷東北大学名誉教授の著書の国内外の英語教育の名著と呼ばれる文献を紹介した本の書評執筆を依頼され、こちらも昨年度中に刊行した。これを機会に中村氏が様々な論文で私の研究について触れてくださり、また生成文法的観点から「5文型」について、有益な教示をしていただけることとなった。 口頭発表に関しても、海外の学際的な学会において日本における英文法教育の詩的問題点を指摘した。国内における学会の発表を含め、2本が論文業績につながった。もう1本は、現在審査中である。 この外平成30年研究内容に挙げた「5文型の祖型」の誕生前夜の詳細な経緯を英米両面から究明することに関しては平成29年度の海外調査で多くの部分を補うことができ、すでに平成29年度中に2本の論文にまとめて発表できた。30年度は、更に先行してComplement という文法用語の初出について、定説を覆す発見をした。この文法用語は1858年にはじめて用いられたとされてきたが、それを更に16年遡る1842年の文献の中にComplement という文法用語が使用されているのを見出し、それを論文化した(現在審査中)。この調査においては、平成31年の研究計画に入っている Carl Ferdinand Becker の研究も先行して取り入れられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画以上に研究が進んだことには、以下の3つの理由があげられる。 1つは平成29年度に行った海外に於ける大規模な資料調査・情報収集の解析が進んだことである。これに予算上の制限から私費で行った米国における資料収集を加え、今後さらに研究を飛躍させることができる。 2つ目の理由は海外の世界的権威との情報交換を継続している事である。Sonnenschein 研究については世界的な権威であるJohn Walmsley 博士(ビーレフェルト大学名誉教授)と連携しながら研究を進めた。昨年度の報告でも書いたように、Walmsley 氏が英国における Pure Grammar という文法運動を調査中であり、その成果を取り入れた論文を現在数本執筆中である。すでに昨年度中の3月末に有審査論文に投稿し、採択された。これは、7月末に出版予定である。Walmsley 博士からは、頻繁に有益な情報を提供してもらい、また、氏の調査や論文についてのコメントも求められるなど、以前に増して情報交換が密になった。 3つ目の理由としては、5月の休暇を利用して、英語教育史の権威である和歌山大学の江利川春雄教授の研究室の資料を調査させていただき、8月の休暇では東京都の4つの図書館の資料を2週間にわたって調査できたことがあげられる。現在、Web上で様々な資料がダウンロードできるが、このような場所にしかない貴重な資料を調べる際には長期滞在が必要となる。科研費を用いることができるのは、とてもありがたい。この際に入手した国内英語教育の資料を基にした日本における「5文型」の発展と普及に関する研究も進み、こちらも昨年度だけで「研究実績の概要」で述べた3本の有審査論文と1本の書評、国際会議や招待発表を含む3回の口頭発表、という形で業績を残すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、課題研究の最終年度であることから大規模な国際的文献調査・研究のまとめとしての論文を複数執筆する。 まずは、規範文法の統語分析の開祖である Carl Ferdinand Becker の文献を調査した結果を発表する。こちらはドイツ語言語学者である島崎のぞみ氏(日本大学非常勤講師)の協力を得てドイツ語原著を調査し、英文法が受けた影響について調査する。また、「5文型の祖型」を提唱した Parallel Grammar Series が誕生したことの間接的な決定因子について調査した結果を論文化する。これらが発表されると、今回補助を受けて進めた研究は完結することとなる。昨年度までの2年間とすでに採択が決定し出版予定の論文7本と執筆中のものを合わせ、3年間の補助金受給期間で約10本の有審査論文が出版される見込みである。 申請時にもう一つの特徴として挙げた国際的な協力体制の元の研究に関しては、まず前述のWalmsley 氏の Pure Grammar の研究との共同作業を行う。計画以上に研究が進展しているので、規範文法の統語論のみならず、現代の統語理論から「5文型」を検証することも試みる余裕がある。こちらはハンガリー国立言語研究所のden Dikken氏と連携を深める。日程の都合でかなわなかったが、昨年度日本学術振興会とハンガリー科学アカデミーのResearch Mobility Grant に応募する計画を進めた。今年度、同じ募集があれば応募する準備は出来ている。さらにUAEで教鞭をとるYoung氏より、招待講演の申し出を受けている。こちらは今年度中に実現できるか定かでないが、科研費による研究の成果を海外に発信する絶好の機会として、準備を進めたい。また、バーミンガム大学に在籍中の伊藤あずさ氏の協力の下での資料収集も過去2年同様大きな成果を上げることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月25、26日に国会図書館で多数複写したが、この時の旅費、複写費が年度内の会計に間に合わなかった。
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