本プロジェクトでは、日本の大学生である学習者の英語論文執筆におけるスタンス表明の研究を行った。2021年度は前年度までに収集したデータとインタビュー調査の結果を質的に分析し、学習者の主観を取り入れたスタンス形成と表明のプロセスに焦点を当てた分析を行い、国際会議にて発表した。 当該研究では、学部生にスタンス表明を担う伝達動詞を紹介し、その後学習者が執筆した成果物に関する教師との面談を録音し、その際のやりとりを記述・分析することにより学習者のスタンスの形成と表明について観察した。教師はスタンス表明に関わる伝達動詞(語彙)や時制・相についての指導を取り入れ、面談の際にもそれらに目を向けるよう提案したが学習者にとっては、スタンスの形成・表明と語彙や動詞の時制・相を結びつけて考えることは難しいようであった。また、ある参加者においては、日本語においても英語においても伝達動詞を避ける(avoidance)傾向があった。分析から、伝達動詞の適切な使用が意識に上ることはあっても、実際の執筆過程にそれを取り入れ、生かすことは困難であることが示唆された。また、母語であっても先行研究に対するスタンスを表明しつつ執筆することの難しさが見て取れた。 母語と英語のニ言語による執筆物の比較を通して、スタンス表明の難しさの側面を明らかにした。また、その詳細として、スタンス形成のプロセスにおいてもつまずきが起こりうることが明らかとなった。
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