研究課題/領域番号 |
17K03051
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
唐澤 靖彦 立命館大学, 文学部, 教授 (10298721)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 要塞築城 / 日本の近代要塞 / 第二次フランス軍事顧問団 / 陸軍士官学校 / 砲兵 / 工兵 / ルイ・クレットマン / 小國磐 |
研究実績の概要 |
本研究は、草創期から日露戦争期にいたる時期(1870年代から20世紀初)に明治陸軍が実施した沿岸要塞築城に対して、フランスの築城学が与えた影響を明らかにする。平成30年度は、陸軍諸学校の特科(砲工兵科)関連資料の収集と、軍事史におけるテクノロジーの位置付けの理解を進めることを主な目的として、以下の調査・研究に従事した。 第一に、「上島善重資料」を発見、調査、収集することができた。上島善重は陸軍士官学校旧2期(砲工の特科生徒は明治12年少尉任官)の砲兵科であり、昨年度に資料を防衛省防衛研究所で調査、収集した井口省吾と同期である。陸軍退役後に町長となった長野県高遠町(現在は伊那市)の図書館と歴史博物館が「上島資料」を所蔵していることが判明し、未整理のものの調査も含めて、士官学校時代の記録、地理図学教程や築城学教程などの教科書を収集した。こうした教科書類は、草創期陸軍士官学校で築城学や地理図学の伝授に当たったフランス工兵科軍人であるクレットマンが用いていたものであり、フランス工兵学術の影響の分析に資する。 第二に、防衛省防衛研究所と靖国偕行文庫が所蔵する陸軍諸学校(教導団、士官学校、砲工学校)の資料や特科関連教科書を調査したほか、古書も買い求めた。これらのうち重要資料(和装本)はデジタル化を進めている。また、国立国会図書館が所蔵する陸地測量部測量、作図の明治期地図資料を調査、収集した。さらに、宮内庁公文書館が所蔵する明治天皇お手元資料に含まれる要塞関係資料を調査、収集した。 第三が、軍事とテクノロジーの関係が歴史に果たした役割の省察である。要塞築城とは、種々の技術の成果である。人間の歴史的営為におけるテクノロジーの変化や発展に軍事が果たした役割、という広い文脈の理解に立った上で、要塞築城を位置付ける必要がある。この理解を進めるため、関連書籍の購入と研究に当たった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、日本国内の公的機関に所蔵されている関連資料の調査、収集に当たったほか、所蔵も公刊もされていない原資料を古書によって収集した。平成29年度に収集したものも含めて、これら資料には整理が十分になされていないものも多いため、資料の背景調査やいっそうの整理を進めている。古書資料は明治期の和装本であり、とりわけ重要なものは資料保存及び利用の便のため、デジタル化に着手した。また、これまでに収集した「小國磐資料」「ルイ・クレットマン資料」「上原勇作資料」に含まれるフランス語ノート類の読解、及び19世紀後半にフランスのエコール・ポリテクニークで学ぶ機会を有した日本人砲工兵科士官の成績表の分析に着手しており、これらは現在も作業中である。 本研究課題が対象としているのは、種々の技術の成果というかたちで現れる要塞築城の技術伝播・交流である。このため、人間のグローバルな歴史的営為において、軍事はテクノロジーの変化や発展にどのような役割を果たしたのかという問いの文脈に、本研究の課題は位置付ける必要がある。平成29年度は資料の調査、収集、整理が研究課題遂行の主要部分を占めたが、平成30年度はこの省察を本格的に開始することができた。 以上、全体として、ほぼ予定通りの進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、資料の調査と収集について、日本及び台湾において以下を実施する。 第一に、後に昭和天皇の侍従武官長になる奈良武次(明治22年砲兵少尉任官)の士官学校在学時代の資料を調査・収集する。これは、初期陸軍士官学校における教育の実際に光を当てることが予想される。第二に、第二次世界大戦終結前後に米軍が撮影した日本の航空写真のうち、各地の明治期要塞上空のものを選定し収集する。これにより、すでに破壊を被った、もしくは原状が不明な明治期要塞施設の姿を一定程度明らかにできる。第三に、国内の明治期要塞のいくつか、及び台湾の澎湖島要塞に赴き、建築素材、構造、要塞編成などを調査する。これにより、フランス築城学を学んだ陸軍士官学校初期の期生が現地で実施した要塞築城の実際を明らかにする。 また、収集した諸資料の整理、読解、分析を継続して行い、日本人士官が学んだフランス築城学の価値、陸軍士官学校をはじめとする草創期軍学校における砲工兵科教育の特徴、フランス築城学を学んだ日本人士官による要塞築城の実際(とりわけ澎湖島要塞の築城)などについて、個別の論考をまとめていく。そして、草創期から日露戦争期にいたる時期(1870年代から20世紀初)に明治陸軍が実施した沿岸要塞築城を舞台に、フランス築城学という技術が日本へと定着するプロセスを、直接的及び間接的に築城に携わった人々を通じて明らかにする著作に取り組んでいく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
明治期の和装本である古書資料のデジタル化は、紙の状態が劣化している資料の扱いに慎重を期す必要から時間がかかり、年度を跨いで納品されることになった。5月7日現在、デジタル化は既に完了しており、次年度使用額のほぼ全額が、納品を待って直ちに予算執行される。そのため、翌年度分(令和元年度分)への影響はない。
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