最終年度となる平成31年度は、これまでの2年間に引き続き、以下の資料収集、調査、研究に従事した。 第一に、山口県立図書館において、1880年代中頃の陸軍士官学校の教科書を大量に発見、調査、収集することができた。これらは、陸軍士官学校旧9期の野北裕次(要塞砲兵科)が昭和10年に同館に寄贈したものであり、第二次フランス軍事顧問団の薫陶を受けた初期の卒業生が士官学校で教鞭をとった際に編集し用いたものである。また、旧11期の奈良武次(要塞砲兵科)の資料(士官学校時代の日記など明治20年代から30年代のもの)を調査・収集することができた。 第二に、東京湾要塞、対馬要塞、下関要塞、由良要塞(和歌山と淡路島)の遺構において、要塞築城の現地調査を行った。明治10年代から20年代初頭にかけて築城が開始されたこれらの要塞では、30年代以降に築城の範式が定まっていく以前の試行錯誤の様態を確認することができた。台湾の澎湖島要塞については、自治体が発行した詳細な調査報告書、及び米軍による第二次大戦終戦前後の航空写真を収集した。過去の現地調査の成果と合わせて、フランス築城学を学んだ日本人士官による要塞築城に関し、澎湖島要塞の論考を出版する。 研究期間全体を通じて収集した諸資料は、フランス軍事学術の影響を受けた初期陸軍士官学校における教育の実際に光を当てる。草創期から日露戦争期にいたる時期(1870年代から20世紀初)に明治陸軍が実施した沿岸要塞築城を舞台に、フランス築城学という技術が日本へと定着するプロセスを、直接的及び間接的に築城に携わった人々を通じて明らかにする著述に取り組んでいる。また、同時期における豪州シドニー湾防禦の要塞築城ついて、現地調査を含めた研究にとりかかる機会を得た。今後は、米国なども含めた太平洋諸岸における要塞築城のグローバルヒストリーの研究も計画している。
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