中国では、「第一に宣教師来り、次に領事来り、次に将軍来る」という俗諺があったとされ、キリスト教の宣教師派遣とその伝道を、欧米列強の軍事侵攻・植民地経営に向けた尖兵と見る向きがあった。遅れて「脱亜入欧」を掲げアジア布教に着手した日本仏教各宗派の場合は、日本国家の海外進出に貢献しようとする意識がより濃厚であり、日本政府の側も、そうした期待を日本仏教に対し抱いていたことは間違いない。 こうした意味で、戦前期の日本仏教のアジア布教は、日本国家による現地の植民地統治を前提として進展してきたのであり、概ねその過程は、①日本の現地進出に先立つ先行布教、②日本の対外戦争に際しての従軍布教、③日本軍が占領した地域の宣撫と軍政統治の安定を図るための占領地布教、④日本の植民地統治下で主に在留邦人を対象とする植民地布教、⑤現地住民を「興亜聖戦」に動員していくための皇民化布教という段階を経て展開してきたと言えるであろう。 しかし、その布教実態はいまだ明らかにされていない点が多く、関係資料の公表も進んでいないのが実情である。そこで、本研究では、その解明に資するため、『仏教植民地布教史資料集成〔満州・諸地域編〕』全8巻(野世英水氏・大澤広嗣氏と共編)を、2016年から2017年にかけて三人社から刊行した。さきに刊行した朝鮮編・台湾編と合わせると、『仏教植民地布教史資料集成』は、全21巻の大部のものとなり一応の刊行を終えた。 引き続いて、資料集成の各編の解題と、アジア布教各地に関する論文を収録した『日本仏教アジア布教の諸相』(野世英水氏と共編著)の刊行を計画し編集作業を終えた。現在再校中であり、本年6月に三人社から刊行予定である。もとより、広い地域に及ぶ日本仏教のアジア布教の全貌を明らかにする上で、不十分な点が多々あることは言うまでもないが、今後の研究に寄与する点は少なくないと考える次第である。
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