研究課題/領域番号 |
17K03053
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
湯上 良 国文学研究資料館, 研究部, 特任助教 (30772363)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 日本 / イタリア / バチカン / アーカイブズ / 文書・図書保護局 / 民間所在資料 / 地方公文書 / 文書管理 |
研究実績の概要 |
本研究は、民間所在資料や地方公共団体の公文書の保護において転機となった第二次世界大戦前後のイタリアやバチカンでのアーカイブズ管理の施策・実状を明らかにし、戦前、同種のアーカイブズ保護の施策が進展しなかった日本との比較を行うものである。 初年度は、各国のアーカイブズ管理の施策や認識を調査するにあたって、バチカンやイタリアの二次資料を主とした文献調査を進めた。また、民間所在資料や地方公共団体の公文書などの非国有アーカイブズに対する保護が盛んなトスカーナや、旧体制国家のアーカイブズが大量に保存されているヴェネツィアでも第二次世界大戦前後の保護施策に関する一次資料が幅広く保存されていることから、収集と調査を行った。さらに調査の機会を利用して、フィレンツェで日伊における文書保護に関する講演会をトスカーナ文書・図書保護局と共催し、日本における非国有アーカイブズの保護の歴史や現状についての発表を行った。 国内では、バチカン図書館から納入された古文書デジタル画像データの内、マレガ神父などが書き残したイタリア語のメモ書きやカードの解読・分析を進めた。また、情報統制・管理の視点からバチカンにおける取り組みをより深く理解するため、16世紀から20世紀まで継続した禁書目録や統制制度に関するイタリア語書籍を翻訳し、出版した。さらに、民間所在資料や地方の公文書を管理する人材に関して非常に重要となる、イタリア統一期から第二次世界大戦前後におけるアーキビスト制度の確立と理論的な発展について、学術誌に査読付き論文を投稿した(2018年4月に掲載決定の通知を得た)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
イタリアとバチカンにおける第二次世界大戦前後のアーカイブズ管理については、各地のアーカイブズ関連機関や図書館等で、主にデジタルカメラによる撮影を通じて二次資料の収集を行った。また、非国有アーカイブズの保護が活発なトスカーナ文書・図書保護局や、旧体制国家のアーカイブズが最も多く保存され、保護活動に従事しているヴェネト文書・図書保護局で一次資料についても収集と調査を行った。これにより、文書保護局が設立された1939年以降、特に注力していた点が明らかになった。 さらに現地調査の機会を活用し、現地の人々を対象とし、日伊での文書保護に関する講演会をトスカーナ文書・図書保護局と共催し、日本における民間所在資料の保護の歴史や現状についての発表や質疑をイタリア語で行い、相互理解と各地での円滑な調査協力を得ることにも成功した。 バチカン図書館収蔵分のマレガ文書に関しては、マレガ神父が文書を整理する際にイタリア語で記し、簡易目録的な役割を果たしたと思われる手帳や、各文書の特徴を記したカードやメモ書きなどの分析を進めた。これにより、神父が文書群を整理する際に着目した点につき手がかりを得られた。また、神父がバチカンに文書群を送付する前後に教皇庁側とやり取りした手紙のコピーも同図書館より入手した。 情報統制・管理の視点からバチカンでの取り組みをより深く理解するため、禁書目録や統制制度に関するイタリア語書籍を翻訳し、出版した。これにより、16世紀から20世紀にいたるバチカンでの情報管理の変遷について詳細な知見を得ることができた。 イタリア統一期から第二次世界大戦前後におけるアーキビスト制度の確立と理論的な発展についての論文では、イタリア半島内の旧体制国家で作成された膨大な文書遺産を継承するにあたり、人材育成の仕組みや方法、教育組織の変遷、そして20世紀初頭のアーカイブズ理論の発展につき明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
研究対象とする三ヵ国の民間所在資料や地方公共団体の文書に対する管理施策や認識を調査するにあたり、引続き各国の二次資料を中心とした文献調査を実施する。また、サレジオ大学所蔵マレガ関連文書(一部はバチカン図書館に移管された)は、マリオ・マレガ神父個人に関する文書や関連書籍、多言語で書かれた関係者の手紙等が1,000点強含まれており、神父のアーカイブズに対する関心や考え方、予備知識を理解する上で重要である。これらの資料については、デジタル画像データの収集が完全にはなされていないため、現地での史料調査も実施する予定である。また、バチカン図書館収蔵分の資料調査は、人間文化研究機構が収集を続け、すでに国文学研究資料館へ納入されているデジタル画像データを用いて効率化を図り、国内で古文書の解読を進め、必要に応じて一次史料を用いた補完的な調査を現地でも行う(これらのデータは、プロジェクトメンバーとして使用が許可されている)。 マレガ文書内には詳細が判明していない三つの異なる分類方法、すなわち、臼杵藩での元々の構造、マレガ神父が収集した際の分類方法、バチカン図書館で1960年代に行われた21袋の分類方法が存在する。こうした分類方法を解明するに当たっても、当時のイタリアやバチカンでのアーカイブズ管理方法との比較は重要な検討課題となる。 さらに、先方との調整がつくのであれば、イタリアの民間所在資料の保護に詳しく、実際の活動に従事しているアーキビストの招聘も実現したい。相互の事情につき理解を深めるだけでなく、日本における文書管理施策にも資するものとなることが期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
「次年度使用額(B-A)」欄が「0」より大きくなったのは、海外に関連する事業であることから、主として為替変動によるものである。翌年度も変動を注視しながら、執行を心がけたい。
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