日本中世に関する歴史研究の素材となる古文書のなかで、相対的に活用がすすんでいない書状について基礎的な研究をおこなった。 古文書のうち研究材料として活用がすすんでいる公文書は、現代的な感覚でいえば、書類と呼ぶべきものであり、第三者の目に入ることが想定されるだけに、差出人と宛先人とのあいだで自明のことでも、きちんと明記されることが多い。それに対して私人間で交わされた手紙という性格が強い書状は、両当事者のあいだに諒解のある事項は明示されず、文面が簡潔なものとなり、活用が難しい。このような書状を工夫して読み解けば、当時の人びとの生活の具体相、さらには感覚や思考法を知ることにつながるのである。
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