研究実績の概要 |
本研究は、日本国内に現存する漢籍に記された書き入れについて、とくに中世の漢籍講義や注釈活動に遡るものに着目し、そこに含まれる広範な知識の内容を検討するとともに、そのあり方を史料学的に位置づけることによって、中国文学や日本文学の分野にとどまらず、日本中世史研究の史料として活用する方法を確立しようとするものである。 本年度の研究においては、前年度までに引き続き、埼玉県に所在する禅宗寺院において所蔵典籍調査を行い、とくに明版一切経の所蔵状況、近世初期の版本への書き入れや写本作成の状況について検討を行った。また、この他の寺院・所蔵機関における漢籍・禅籍の調査も行い、中世に遡り得る漢籍書き入れの有無を確認した。これらの調査で撮影した史料のうち所蔵者の承諾が得られたものについては、史料編纂所図書室において写真帳もしくはボーンデジタルの形で順次閲覧公開に供している。 これらの調査を踏まえて、今年度はとくに相国寺僧桃源瑞仙の『史記』講義にかかわる典籍のなかから石窟に関する記述を検討し、夢窓派の寺院造営・仏像建立との関係について研究を行った。この成果を含む論文については次年度初めに刊行される予定である。 本研究は本年度が最終年度であるが、研究期間全体を通してさまざまな漢籍・禅籍の書き入れ・注釈から見える日本中世社会の様相について検討を行い、川本慎自『中世禅宗の儒学学習と科学知識』(思文閣出版,2021)などの研究成果を公表している。また、本研究の調査を進める過程で、秩父金仙寺の所蔵史料のなかに明版一切経を含む多様な典籍が含まれることが明らかとなったため、より調査を深めるためにあらたな科研費の申請を行い、次年度より基盤研究(C)24K04222「中近世移行期の版本刊行からみた禅宗寺院の蔵書形成と知識入手の研究」により引き続き調査・研究を行う予定である。
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