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2018 年度 実施状況報告書

大宝律令の画期性に着目した律令制形成過程の再検討

研究課題

研究課題/領域番号 17K03063
研究機関山梨大学

研究代表者

大隅 清陽  山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (80252378)

研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2021-03-31
キーワード律令制 / 比較史 / 東アジア / 大化改新
研究実績の概要

2年目にあたる平成30年度には、日本律令制を構成する要素のうち、魏晋南北朝から隋代にかけての律令制を朝鮮半島経由で継受したと申請者が考えている「プレ律令制」の内実について検討するとともに、大宝律令を中心とする律令制の施行が地域社会に及ぼした影響について、主に甲斐国をフィールドとして検討し、著書1点、口頭発表3点の成果を得た。
口頭発表「「律令制」研究と「公民制」成立論・再考」では、戦後の古代史研究において、戦前の坂本太郎が提唱した「公地公民制」という概念のうち、「公民制」のみが国家成立のメルクマールとされてきた背景を、大化改新否定論の文脈で位置づけるとともに、代表者が提唱した「プレ律令制」の概念を用いつつ、「公民制」の成立を「狭義の律令制」の成立と同一視してきたこれまでの研究に代えて、「プレ律令制」の文脈で理解することを提唱した。また共著書『講座畿内の古代学 第Ⅰ巻 畿内制』所収の「畿内政権論」は、日本の畿内制を、日本律令制における氏族制的な要素の一つとして位置づけ、それが律令制の施行と展開に伴い変質・解体してゆくとした。
口頭発表「古代史からみた甲斐の地域性」および「文献からみた貞観噴火」では、大宝・養老律令の施行が地域社会に与えた影響について、駅制の施行と駅路の設定と国郡制との関係や、富士山の噴火が交通に及ぼした影響を題材に考察した。
海外調査としては、9月に中国山西省北部で南北朝から隋唐期にかけての史跡・文化財を調査し、特に大同においては、日本の「プレ律令制」の源流とも言える北魏の史跡・文化財(皇帝陵や石窟、寺院など)を通じて、7世紀以前の日本の文化や国制との比較史的な検討を行うための観点を得た。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究課題の中心をなす律令制の段階的な施行が、日本の社会や地域にどのような変化をおこしたかという観点から、共著書1点、口頭発表3点の成果を得た。特に口頭発表「「律令制」研究と「公民制」成立論・再考」は、本研究課題の採択時の研究実施計画では平成31年度に予定していた内容を先取り的に検討したもので、次年度の研究の基礎を築くことができた。
また特に口頭発表「古代史からみた甲斐の地域性」および「文献からみた貞観噴火」は、本課題の定義によると「プレ律令制」の段階にある孝徳朝の立評から天武朝の七道制の施行と官道・駅制の整備が地域社会にどのような影響を及ぼしたかを扱っており、前年度にあたる平成29年度刊行の単著書『古代甲斐国の交通と社会』の成果を更に発展させたものである。
前年度の実績をさらに発展させるとともに、次年度の研究の先取り的な作業を行ったことから、全体として、おおむね順調に進展していると考えられる。

今後の研究の推進方策

令和元年度においては、大宝律令を中心とする律令制の施行が、地域社会に及ぼした影響に加えて、特に「プレ律令制」の内実についての検討を進める。
京都大学の吉川真司は、律令制的な公民支配成立のメルクマールを「五十戸制」に求めているが、天智朝や「五十戸制」下における民衆支配は「律令制」的なものではなく、令制の品部・雑戸における「一戸一丁制」のように、戸の代表者としての丁男のみを把握する「部民制」的なものであったとする森公章や仁藤敦史の主張があるように、「五十戸制」が成立しているからと言って、「律令制」的な「公民」支配が存在するとは限らない。
1束の稲が収穫される田の面積を1代とする代制が、田令第1条に規定される町段歩制に転換するのも、近年では大宝令の段階とされることが多い。令制前(申請者の理解では「プレ律令制」段階)のミヤケ経営においては、その田地はミヤケの稲が投下されている田であり、代で表示されるその面積は、毎年の穫稲の総量から逆算されたものと思われる。また田部とはミヤケの稲を種稲・営料として支給されている人々で、その人数は、ミヤケで運用されている稲の量に比例していただろう。このようにミヤケにおいては、「田地の支配」と「人の支配」を媒介する要として「稲の支配」が存在していたと思われるが、いわゆる後期評の段階で、評(郡)の正倉の形成が始まることは、それまで評内に散在していた部民制以来のミヤケが、この段階で、ようやく評(郡)家=コホリノミヤケに統合され始めたことを意味している。この見通しと、北宋天聖令を用いた日唐令比較研究を結びつけることにより、「プレ律令制」から「狭義の律令制」への転換が行われた大宝令の段階で、律令制的な公民・土地支配が確立してゆく過程を、吉川とは異なる形で説明することを試みたい。

次年度使用額が生じた理由

(理由)千円未満の残金が生じたが、少額の消耗品程度の購入しかできないため、次年度への繰り越しとした。
(使用計画)購入を予定していた図書の刊行の遅れがあるので、刊行が確認され次第、その購入費に充てる予定である。その他については、現在のところ当初の計画通り研究が進んでいるため、研究計画調書の予定にそって使用したいと考えている。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2018 その他

すべて 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)

  • [学会発表] 古代史からみた甲斐の地域性2018

    • 著者名/発表者名
      大隅清陽
    • 学会等名
      武田氏研究会第32回総会記念講演
    • 招待講演
  • [学会発表] 「律令制」研究と「公民制」成立論・再考2018

    • 著者名/発表者名
      大隅清陽
    • 学会等名
      日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)「日本古代国家における中国文明の受容とその展開―律令制を中心に―」研究会
  • [学会発表] 文献からみた貞観噴火2018

    • 著者名/発表者名
      大隅清陽
    • 学会等名
      平成30年度山梨県富士山総合学術調査研究公開研究会
  • [図書] 講座畿内の古代学 第Ⅰ巻 畿内制2018

    • 著者名/発表者名
      広瀬和雄・山中章・吉川真司編
    • 総ページ数
      302
    • 出版者
      雄山閣
    • ISBN
      978-4-639-02523-8
  • [備考] 山梨大学研究者総覧

    • URL

      http://nerdb-re.yamanashi.ac.jp/Profiles/329/0032885/profile.html

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公開日: 2019-12-27  

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