研究課題/領域番号 |
17K03065
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
市 大樹 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (00343004)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 木簡廃棄論 / 木簡機能論 / 木簡形態論 |
研究実績の概要 |
本研究は、(1)東アジアという視点から「日本古代木簡の源流と特質」を探ることを最大の目標としている。日本古代木簡の研究は、世界に誇るべき方法論をもち、豊かな研究成果をあげてきたが、残念ながら日本史の枠組みにとどまっている。中国・韓国の木簡研究にも正面から向き合うことによって、その方法論を学ぶとともに、日本古代木簡の研究で培われた方法論の発信につとめ、その相乗効果によって日本古代木簡研究の飛躍を図りたい。関連して、(2)木簡研究から導き出される〈文書機能論〉の観点から、従来の〈文書様式論〉に依拠した古文書学の再検討をおこない、新たな史料学に向けた提言をする。さらに、(3)木簡研究の成果を日本古代国家成立論のなかに反映させることも狙う。(2)(3)によって、木簡研究の有効性を示したい。 以上の目標を掲げ、本年度は特に次のような作業をおこなった。第一は、日本古代木簡の資料的特質を明らかにする作業である。中国・韓国木簡を分析する際にも有効な視点を模索し、木簡廃棄論、木簡機能論、木簡形態論という視点から俯瞰を試みた。その研究成果の一端を、歴史学の総合学術雑誌である『歴史学研究』に発表した。この論文では、古文書学の研究動向についても言及し、新たな史料学を打ち立てるための第一歩とした。第二は、日本古代木簡の個別的な検討を進め、それを日本古代史全体のなかに位置づける作業である。本年度は特に、王宮における門の通行行政、日本各地に置かれた駅家の経営、美濃国を中心とした地方行政・税制のあり方、『日本書紀』の用字との関係について考えてみた。第三は、日本古代木簡を相対化するための作業である。本年度は特に、『万葉集』、淀川流域関連史料、天平六年度(734)出雲国計会帳の分析をおこない、木簡一辺倒の分析にならないようにつとめた。第二・三の作業結果についても複数の論文として発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)東アジアという視点から「日本古代木簡の源流と特質」を探る、(2)木簡研究から導き出される〈文書機能論〉の観点から、新たな史料学に向けた提言をする、(3)木簡研究の成果を日本古代国家成立論のなかに反映させる。この三つの目標に向かって、①遺跡・遺構の状況、木簡の形状に留意しながら、文字だけから窺われない情報を最大限に読み取ること、②木簡を群として捉える視点に立って、木簡のライフサイクルを明らかにすること、③木簡の使用場面を具体的に思い描きながら、場面ごとに木簡の機能を追求すること 、④木簡の周囲にも目を向け、紙と木の使い分け、文書伝達と口頭伝達の関係を明らかにすること、以上四つの視点に留意しながら、日本古代の都城・地方官衙跡出土木簡の実物調査・内容分析につとめ、本研究の基礎固めを着実におこなうことができた。 こうした基礎的成果の上に、(あ)日本古代木簡の資料的特質を明らかにする作業、(い)日本古代木簡の個別的な検討を進め、それを日本古代史全体のなかに位置づける作業、(う)日本古代木簡を相対化するための作業に取り組み、研究実績の概要の欄に記したように、それぞれ一定の成果をあげることができた。特に重要な成果だと考えているのが、A木簡廃棄論、B木簡機能論、C木簡形態論という三つの視点から、日本古代木簡全体の資料的特質について整理したことである。この三つの視点は、単に日本古代木簡のみならず、中国・韓国木簡を理解する際にも重要な手掛かりになると考える。そして、まだ具体的な成果があがっているわけではないが、肩水金関出土の通行証木簡の分析、〈多機能性〉を窺わせる日本古代文書の抽出、白村江の戦い(663)に至る東アジア情勢の検討についても、それぞれ開始することができた。 以上を総合的に判断して、研究はおおむね順調に進展しているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度に引き続き、日本古代都城・地方官衙跡出土木簡の実物調査・内容分析につとめ、本研究の基礎固めを着実におこなっていきたい。そして、(あ)日本古代木簡の資料的特質を明らかにする作業、(い)日本古代木簡の個別的な検討を進め、それを日本古代史全体のなかに位置づける作業、(う)日本古代木簡を相対化するための作業に、それぞれ精力的に取り組んでいきたい。 2017年度の研究成果として、日本古代木簡全体の資料的特質を解明するための視点として、A木簡廃棄論、B木簡機能論、C木簡形態論、の三つが有効であることを主張した。引き続き、日本古代木簡の地道な検討を通じて、この三つの視点の有効性を再検証していきたい。また、この三つの視点以外にも有効な視点はないか、さらに模索を続けていきたい。なお、2017年度は日本古代木簡の分析に多くの時間をとられたが、今年度以降は、中国・韓国木簡の分析にもより多くの時間を割くようにする。特に、中国漢代の肩水金関出土の通行証木簡の分析に力を注ぎ、中国唐代の紙の通行証、日本古代の紙の通行証および通行証木簡との比較検討をおこない、中国における通行証の変遷過程、日本における受容のあり方について、一定の見通しを得るようにしたい。 上記(う)とも関わるが、木簡以外の資料にも幅広く目配りをし、検討を進めていきたい。とりわけ、2017年度に引き続き、〈多機能性〉を窺わせる日本古代文書の抽出作業に取り組み、従来の〈文書様式論〉に依拠した古文書学からの脱却を目指したい。 また、以上の研究成果を、日本古代国家成立論のなかに反映させるようにつとめていきたい。人物叢書『斉明天皇』を執筆する予定であるので、そのなかに以上の研究成果をうまく組み込むことができるように、斉明天皇に関する勉強も引き続きおこなっていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、物品費を使ってノートパソコンを購入する予定であったが、大学の運営費交付金を充当できるようになった。その他として印刷費を予定し、論文の抜き刷り代として使用することを考えていたが、抜き刷りの無料配布などの好条件もあって、印刷費を使用する必要がなくなった。以上が次年度使用額が生じた主な理由である。 本研究を進めていくためには、幅広い分野の研究書などをそろえる必要があり、そのための費用として次年度使用額を有効に活用したい。また、次年度以降には抜き刷り代が発生する確率は高く、そのための費用としても有効に活用したい。
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