日本の地域社会における古代や「神代」へつながる歴史意識の形成と展開を、出雲地域の「古代出雲」像を素材にして明らかにするために、近世の『出雲風土記抄』など『出雲国風土記』研究および「古代出雲」研究の体系的整理を行ってきた。 2019年度は近世を中心とした『出雲国風土記』研究と「古代出雲」研究の整理のために、作年度までに引き続き、以下のような調査と調査成果の整理を行った。 前年度末に行った調査の整理と分析をおこない、これまでの先行研究成果とあわせて、福岡藩の学者青柳種信と筑前を中心とした出雲国風土記研究のネットワーク、それが出雲地域に伝存する『出雲国風土記』写本ともつながってくることなどの状況を整理した。 初年度から継続している内山真龍と『出雲風土記解』の成立過程と古代出雲認識の関係についての調査、分析も進めた。『出雲風土記解』の諸本調査、内山真龍書状の原本調査、内山真龍の出雲調査旅行に同行した山下正嗣『筑紫日記』の原本調査も行った。過年度に調査した高林方朗『弥久毛乃道草』、真龍自身の『出雲日記』とあわせて、調査旅行の詳細を整理した結果、『出雲風土記解』につながっていく状況が明らかになった。これらが『出雲風土記抄』『訂正出雲風土記』などとどう関係し、風土記と地域の関係をどのように認識していったかを分析するための基盤を形成した。 真龍たちは、出雲から浜田、福岡へと足を延ばしているが、面会は果たせなかったものの、浜田の学者で本居宣長に出雲風土記抄をもたらした小笹敏や福岡の青柳種信との交流など、各地の出雲風土記研究のネットワークの拡大の状況整理も行った。 以上出雲国風土記を手がかりとして歴史意識としての「古代出雲」像形成につながる、風土記研究ネットワークと広がりの整理、分析を行うことができた。今後、成果を公表していく予定である。
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