研究課題/領域番号 |
17K03070
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
木島 孝之 九州大学, 人間環境学研究院, 助教 (20304850)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 民家 / 農民 / 住宅 / 近世 / 戦国 / 農村 / 土豪 / 人畜改帳 |
研究実績の概要 |
今年度は、「現在までの進捗状況」に記すとおり、緊急を要する文化財調査を受諾したことで、研究が大幅に遅れた。そのため、当初予定していた『肥後人畜改帳』に記載する二千筆ほどの農民住宅のデータ入力の内、現在までに終了したのは、五百余筆である。よって、全体を詳細に分析するには至っていない。ただ、「様式S-1-8」[研究目]に挙げた当初の予見(7点)を修正する必要は生じていない。また、データ入力が終わった五百余筆を通して、当初の予見に加えて、新たに次のような予見を持つに至った。 ①「座敷」の所持する者は、「庄屋」(郡代直触れ)のような、武家との直接対面の機会を持つ職制を持つ場合が殆どである。一方、村内で70~80石に及ぶ最高の高持百姓であったも「庄屋」職等の職制にない者では、「座敷」を所持しない者が目立つ。つまり、「座敷」の所持は、単に経済力や農民側の身分的欲求の問題というよりも、武家の対面儀礼に関わる職制を持つか否かという、実生活での必要性によるところが大きい。 ②「座敷」の規模は、18世紀後期の豪農住宅で見られるような、上級武家にも匹敵する大型座敷(式台又は次ノ間、座敷、奥座敷の三段構成を持つものなど)の所持は、例外的である。また、その例外的な住宅とは、持高が特別大きい豪農ではなく、街道筋の御茶屋等に指定された住宅ではないかと思われる。座敷の規模の中心は、八畳二間(八畳の座敷・次ノ間から成ると思われる)、十二畳(八畳の座敷と四畳の次ノ間又は式台から成ると思われる)規模のものが占める。この点は、「座敷」の所持が実生活における必要性によるところが大きい(ゆえに、必要以上の規模を求めない)という問題とも重なる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度5月より、北九州市戸畑区所在の旧安川邸の調査(文化財的価値の分析と評価、邸内「洋館棟」の現状実測図面の作製。以下、「安川邸調査」と略する)を北九州市文化財係より依頼され、受諾した。受諾の理由は、次のとおりである。 まず、北九州市文化財保護審議委員を務めていた関係上、委員の中で建築史関係者が私一人である事情に鑑みて、受諾を責務と捉えた。また当時、市の議論の中では、邸内の「洋館棟」の取り壊し計画が進行していたが、視察を行った際に、この建物が持つ極めて高い文化財的価値に気付いた。そこで、文化財保護審議委員の責務として、「洋館棟」の取り壊し計画の再考及び文化財としての保存を説くため、安川邸調査の緊急性を感じた。 安川邸調査の開始当初は、平成14年に市が作製した「洋館棟」の調査報告書があるため、それを叩き台にして実測平面・立面・断図面の加筆・修正、詳細図・展開図の作製、文化財的価値の分析と評価を行う計画であり、研究課題と両立できる見込みであった。しかし、調査を進める中で、多数の新出史料(建築・設備図面、建設関係見積書、建設経緯に関する書簡等)と、建築史・産業史・技術史において大変興味深い幾つもの施設・遺構を確認したことで、当初の調査計画を大幅に上回る労力と時間を要することになった。しかし、「洋館棟」の調査の緊急性に鑑みて、安川邸調査の方を優先した。 安川邸調査は3月末で一応、一段落したが、その後も、更なる調査の追加と、報道機関への公開に向けた説明資料の作成及び清掃作業などが4月下旬まで続いた。結果、研究課題が当初予定していた四分の一程度しか実行できなかった。 なお、「洋館棟」については、安川邸調査で提示した極めて高い文化財的価値を市が認め、4月19日の市長定例会見の中で、市長が取り壊し計画を撤回して、保存と市有形文化財への指定を明言した。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、安川邸調査の詳細な追加報告書の作成の残務作業と、所属研究機関九州大学の伊都学舎への全面移転(7月末~9月)に伴う作業・雑務があり、9月までは十分な研究時間が取れない見込みである。秋期から年度末には纏まった研究時間が取れる見込みであるので、他の研究を極力控えて、『肥後藩人畜改帳』のデータ入力と分析作業の大きな遅れを取り戻す予定である。しかし、次年度も今年度の研究の遅れの影響で、当初予定に遅れが生じる可能性が高い。
|
次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、北九州市文化財保護審議委員会委員の職務上、緊急を要する文化財調査(旧安川邸の文化財的価値の調査)の依頼を受諾し、それを最優先したことで、予定していた関東・関西での民家の調査ができなかった。そのため、旅費に残りが生じた。 次年度は、冬期に、今年度に実見できなかった民家を併せ、集中して遺構調査を行う予定である。
|