研究課題/領域番号 |
17K03071
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
水野 章二 滋賀県立大学, 人間文化学部, 教授 (40190649)
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研究分担者 |
笹生 衛 國學院大學, 神道文化学部, 教授 (60570471)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 塩津 / 琵琶湖 / 寺家遺跡 / 気多神社 |
研究実績の概要 |
研究協力者を含むメンバー5人全員で、新たな地点で発掘が開始された塩津港遺跡の調査を実施し、これまでの研究との関連を検討したが、予想されていた起請文木札の新たな発見などはわずかしかなかった。また滋賀県庁所蔵史料を調査して、明治初期の塩津や大浦に関する絵図類を確認・撮影した。これまでの発掘成果を整理し、報告書作成に協力するとともに、塩津周辺地域の歴史・民俗などに関わる史料・報告書を収集・整理して、問題点を確認した。 また塩津港と密接な関係にある日本海岸港湾の古代・中世における実態の検討を進め、能登の拠点港と関連する羽咋寺家遺跡・加茂遺跡、七尾国府津遺跡などの現地調査をメンバー全員で実施した。羽咋市立博物館・のと里山里海ミュージアムでの史料調査・情報収集および、寺家遺跡と密接に関わる能登一宮気多神社の立地環境などの現地調査を行い、中世後期における飛砂の増大などの環境変化による港湾の変遷について検討した。 このような全員による調査とともに、各メンバーがそれぞれ考古学・文献史学の立場から、関係事例の分析を進めた。文献史学では、滋賀県立図書館・滋賀県庁・長浜城歴史博物館などで、塩津周辺地域の史料、琵琶湖・近江の交通関係史料の調査を行った。考古学では、琵琶湖および各地の津湊関係遺跡や津湊を守護する宗教施設の発掘調査事例などの収集・比較を進めた。また古代・中世の日本海岸の拠点港湾であった青森県十三湊や、島根県杵築・鳥取県布施などの個別調査を実施し、港湾の立地と変化の実態を検討するとともに、東日本・北日本と畿内の接点となる近江の交通・流通上の役割を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
塩津港遺跡1(全3冊)の発掘調査報告書が2019年3月に刊行され、研究協力者の横田洋三と濱修がその重要部分の執筆にあたった。その際、他の共同研究メンバーとの意見交換を重ね、遺構や遺物の解釈について協議した。発掘調査報告書はあくまで考古学的な遺跡調査に関すものに限定されるが、塩津港遺跡は、古代・中世の交通・流通、琵琶湖の環境変動などの諸問題に関わるもので、文献史学を含めた広い視点からの検討が必要であった。 塩津は畿内と日本海岸を結ぶ最重要港であったが、関連史料が乏しく、文献史学や歴史地理学からの塩津研究が遅れていたため、塩津や近隣の大浦に関する文献史料や絵図の収集・撮影を進めることができた。 塩津港遺跡の平安時代後期の神社遺構の掘立柱建物柱根が北に傾いており、神像や社殿の建築部材などが北側に倒壊しているため、1185年の琵琶湖西岸断層による元暦地震(マグニチュード7.4)の津波の影響とする推定がなされてきた。この点については、元暦地震の評価に直結するものであり、現在文献史料の解釈や地震学の成果などをふまえた広い角度から、検討を進めている。それとともに琵琶湖岸および日本海岸の津湊に関する考古・文献史料を収集しており、大規模な防波堤などを構築することができず、自然条件を重視して立地するほかはなかった古代・中世の港湾と環境変動の問題を、宗教施設の役割を含めて検討している。 また寺家遺跡など、塩津とつながる日本海側の港湾やそれを守護する神社の現地調査を実施し、塩津港遺跡の交通史上の特質を整理・確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に引き続き、文献史学の側面から、周辺の自治体や資料館などに残された塩津関連史料の調査を継続するとともに、琵琶湖水上交通および日本海交通における塩津および周辺地域に関連する記述の収集など、広く文献史料の分析を進める。出土起請文木札などの位置づけとあわせて、塩津・塩津港の実態を文献史学の方法で明らかにする。 塩津港遺跡が示す古代・中世の港湾の実態を、同時期における全国的な事例との比較から考古学的に明らかにする。また護岸工事のあり方など、土木技術の側面からも事例調査を進め、特徴を明確にする。あわせて、発掘された神社遺構や遺物などの分析を通じて、港湾とそれを取り巻く宗教施設の意味・性格を明らかにする。 塩津港遺跡は14世紀末には水没しているが、この状況は湖西と若狭をつなぐ平安・鎌倉期の拠点港木津と全く同じであり、木津および周辺地域(摂関家領河上荘など)を含めた琵琶湖環境全体の変化との関連について検討を進める。また元暦地震が塩津港遺跡に与えた影響について確定する。 最終年度である今年夏には、安土城考古博物館で、塩津港遺跡発掘調査成果展が開催され、研究代表水野が講演会、研究協力者の濱・横田が関連講座を担当する予定である。また研究成果は、今年度末に報告論文集を出版できるように準備を進めており、滋賀県のサンライズ出版から出版の内諾を得ている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度分については、ほぼ順調に研究費を執行できたが、残額が出たのは昨年度の第一年目の研究開始が遅れたため、残額が出た分がそのまま残ったものである。次年度は最終年度にあたり、研究成果の出版のための印刷費が多く必要となるため、印刷・出版経費に充当する予定にしている。
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