研究課題/領域番号 |
17K03072
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研究機関 | 尾道市立大学 |
研究代表者 |
森本 幾子 尾道市立大学, 経済情報学部, 准教授 (20425060)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 阿波国 / 地域市場 / 中央市場 / 廻船経営 / 大坂両替商 / 手形 / 肥料 |
研究実績の概要 |
今年度は、本研究課題のうち、研究対象商家である阿波国撫養の山西庄五郎家と、江戸・大坂の中央市場の金融関係について、おもに手形流通の観点からの考察を進めた。当該研究成果は「幕末期中央市場の金融機能と商人経営‐阿波国撫養山西家の廻船経営から-」と題し、所属大学の研究論集(『尾道市立大学経済情報論集』第20号第1号、2020年7月)に掲載した。具体的には、まず、山西家が江戸や撫養などで肥料を「直接」購入する場合でも、肥料代金の決済においては、手形振出、為替手形送金などの形で、大坂両替商が信用を供与していたことや、江戸およびその周辺地域の金融機能を含めたより全国的な金融体系から、山西家の経営と大坂の金融機能の関係を明らかにした。また、山西家の取り扱う商品の性格にも留意し、斎田塩など徳島藩の専売品である「蔵物」の江戸移出販売代金が、肥料などの「納屋物」購入資金として大坂両替商にストックされていた状況を踏まえ、「蔵物」「納屋物」が山西家の経営のなかで一体化することの意味を、金融の面から捉え直した。最後に、これらの分析をふまえ、従来大坂周辺地域に限定して考えられてきた大坂両替商の手形流通圏についての再検討を試み、阿波国徳島・撫養・吉野川流域の商品生産地域をその流通圏に含めた考察を行った。 これまでの研究史では、江戸の金融機能と山西家のような新興商人の金融関係が不明確であったが、当該研究では、江戸の金融機能を包摂する形で大坂の金融機能が強化されていたことを実証し、幕末期の大坂が、より全国的な金融の拠点として機能していたことを明らかにした。さらに、商品の性格に留意した時、藩の「蔵物」流通に規定されるばかりではなく、むしろそれを利用しながら「納屋物」流通を円滑化させ、全国市場において独自の取引関係を構築したところに、山西家のような新興商人の特徴があったことを明示することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題については、当初は3年間で終了する予定であったが、新型コロナウイルスの影響により、延長を申請し、現在まで継続している状況である。当初の研究計画では、最終年度は、研究対象商家である阿波国撫養山西庄五郎家と北陸地域の北前船商人との経済的取引関係を基盤とした「文化的交流」について追加して調査する予定であった。ただ、現在は、新型コロナウイルスの感染拡大状況が落ち着かないため、研究対象地域(徳島県・北陸地域)への資料調査に出掛けることが難しい状況である。したがって、それに代わる調査研究の対策として、これまで収集した資料やデジタルアーカイブ、研究対象地域の各市町村史などを購入し研究を進めている。これら既刊の各市町村史は、詳細な記録が多く収録され、そのなかから当該研究に必要なデータを収集することは十分に可能である。とりわけ各市町村史のなかの「寺社」の項目には、各地の商人たちが奉納した鳥居・狛犬・玉垣・絵馬などを散見することができ、19世紀における経済的取引関係を基盤とした商人相互の「文化交流」に関して新たな知見が得られる。今後、実際に現地調査をすることが難しい場合は、既刊の市町村史から得た情報をまとめ、これまでの研究成果と照合させて、新たな研究成果として発表することも可能である。 さらに、本研究課題に関する全体的な研究成果については、これまでにも論文・研究発表・講演会などによって社会に還元している。また、今年度は、これらの研究成果をまとめた報告書や、それをもとにした著書を出版する予定である。 したがって、本研究課題に関する現在までの研究進捗状況としては、新型コロナウイルスの影響があるとは言え、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究課題を遂行するため、当初計画していた調査に出掛ける予定である。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大状況によっては、現地調査は困難であるため、これまでのように、調査対象地域の各市町村史、デジタルアーカイブなどを利用することによって、研究を進める。 とくに、残りの研究は、研究対象商家である阿波国撫養の山西庄五郎家と北陸地域の北前船商人の「文化交流」に関する研究が中心となっているため、現在は、まず、これまで購入した研究対象地域の各市町村史からデータを収集し、さらに、補足資料を購入するなどして研究を進めておく。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着き、遠隔地への調査が可能となった際には、事前に収集したデータをもとにして現地調査を行う予定である。 さらに、本研究課題に関する研究発表についても、新型コロナウイルスの感染拡大状況によって現地で実施することが難しい際には、オンライン通信による研究発表等を予定している。 また、上記の研究を行うと同時に、本年度は、本研究課題に関する報告書をまとめ、それに基づいて、さらに著書の形でも出版する予定である。 出版予定の著書は、平成29年度から継続してきた本研究課題を中心とする内容であり、すでに刊行する出版社も確定しており、現在校正作業を進めている最中である。したがって、今年度のうちに、本研究課題の全体的な成果を著書という形で社会に還元する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大状況により、予定していた徳島県および北陸地域における資料調査および現地調査ができなかったため、当初計画していた調査旅費やそれに伴って生じる費用の計上がなくなったためである。 今後、新型コロナウイルスの感染拡大状況が落ち着き、調査許可が下りれば、現地に赴いて調査を行うが、それが困難な場合は、調査対象地域の市町村史や著書の購入によって、データ分析を実施し、研究成果を発表する予定である。
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