研究課題/領域番号 |
17K03072
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研究機関 | 尾道市立大学 |
研究代表者 |
森本 幾子 尾道市立大学, 経済情報学部, 准教授 (20425060)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 阿波国 / 廻船経営 / 蔵物 / 納屋物 / 手形 / 商品流通 / 商業金融 / 文化交流 |
研究実績の概要 |
当該年度の研究実績としては、単著として『幕末・明治期の廻船経営と地域市場―阿波国撫養山西家の経営と地域』(清文堂出版、2021年、A5判638頁、ISBN:978-4-7924-1482-5)を出版し、さらに、2002年3月29日には徳島県文化振興財団より「第46回「とくしま出版文化賞」を授与されたことである。 本書は、幕末・明治前期における市場構造の特質を、新興商人として台頭してきた阿波国撫養山西家庄五郎家の経営を通して、中央市場および各地域市場との関係から明らかにしたものである。 具体的な内容は、幕藩制市場から近代的国内市場形成の主要な担い手として、商品流通・金融・情報の結節点に位置した山西家のような新興商人を取り上げ、とりわけ山西家と日本各地域の商人および阿波国領内の取引先や幕府・徳島藩との関係に留意することによって、当該期市場構造の特質について考察したこと、明治後期から大正期にかけて国内市場が変容するなかで、山西家がロシア領カムチャッカの漁業経営に転換したことを明らかにし、当時の日本経済と北方地域との関係性についても展望を行ったことである。さらに、このような経済的取引関係を基盤とした山西家および取引先商人による奉納互酬関係や地域文化の創出を通して、経済的取引関係のみでは取引先地域との関係が完結せず、「文化」の交換が重要な要素であったことを明示している。 本書の意義は、研究の少ない幕末・明治期(近世・近代移行期)について、新興商人の立場から史料分析を行い、中央市場の位置付けの再検討、地域市場についての具体的様相を、「蔵物」「納屋物」の商品流通、中央市場の商業金融機能、商人相互の情報交換等の多面的な要素から明らかにしたことにある。 研究上の重要性としては、経済的取引と文化交流の相互の関係性をふまえ、当該期の市場構造について考察すべきであることを明示したことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究については、研究助成を受けた年度以降、毎年研究発表や論文執筆および公開を行っている。 例えば、第68回地方史研究協議会大会報告や、その成果としての著書執筆(「近世近代移行期の商人資本と地域経済―山西家による肥料代金決済をめぐって―」(『徳島発展の歴史的基盤-「地力」と地域社会-』雄山閣出版、2018年、247頁~270頁、分担執筆、ISBN:9784639026112))、その他研究対象地域の研究雑誌・学内研究紀要等への論文掲載(「19世紀における阿波商人の経済活動と奉納」(『徳島地域文化研究』第16号、2018年、60頁~73頁。)、「幕末期中央市場の金融機能と商人経営-阿波国撫養山西家の廻船経営から-」(『尾道市立大学経済情報論集』第20巻・第1号、2020年、105~140頁。))、さらに各研究対象地域での学会発表(「幕末期地方商人の経営と大坂両替商の金融機能」大阪歴史学会例会報告、2019年、「幕末期阿波国商品生産地域における米穀流通」徳島地方史研究会例会報告、2020年)等を実施することによって、何らかの形で研究成果を社会に還元している。 2020年度以降は、新型コロナウイルス感染拡大状況が続いたため、当初予定していた遠方への学術調査がほぼ不可能となったが、調査対象地域に関する書籍を購入し、また、これまで収集した資料データを詳細に分析することによって、研究が途切れないよう尽力した。 その結果、2021年度には、研究成果として単著を刊行し、研究対象地域の新聞紙上にも紹介され、徳島県文化振興財団より「第46回とくしま出版文化賞」を受賞するなど、これまでの研究成果を広く社会に還元することができた。
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今後の研究の推進方策 |
当該研究は、2021年度に単著を刊行することによって一つの研究成果を発表できたと考えている。 今後は、著書において執筆できていない部分をさらに追究し、研究発表と論文執筆を行う予定である。著書のなかでは、幕末・明治期の商人たちが、遠隔地間商取引を行うためには、経済的取引のほかに、取引先地域の寺社に対する何らかの奉納(石造物、絵馬、金銭、祭礼への投資等)を行うことによって、さらに両者の関係性は深まることを指摘した。 著書のなかでは、当該期における商人の経済的取引関係に力点を置いて論じたが、今後は、このような商人間における文化的交流の部分に焦点を当て、また、著書執筆過程において得られた研究上の情報を含め(例えば、北海道の神社に阿波国商人の奉納物があること等)、引き続き研究を進めていく予定である。 今後、新型コロナウイルス感染拡大がおさまり、再び研究調査を行うことができれば、現地(北陸地方・北海道)に赴き、環境の許す限りにおいて調査を行う予定である。 ただし、新型コロナウイルス感染拡大が収まらない場合は、調査対象地域の書籍を収集し、また、これまで収集した資料データを分析することによって、継続して研究できるような環境を維持する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大状況のため、当初予定していた北陸地域等への調査が困難となったためである。 今後は感染拡大状況を鑑み、当初の研究計画にしたがって北陸地域(石川県・福井県中心)に赴き、阿波国商人と北前船商人の取引関係や文化交流関係調査を行う予定である(1回程度)。 さらに、北陸地域に加え、研究過程(著書執筆過程)において、研究対象の阿波国商人が北海道の神社に石造物を奉納したという情報を入手したため、これも新型コロナウイルスの感染拡大状況および予算を考慮した上で、余裕があれば調査に赴く予定である(1回程度)。 万一、現地調査が困難となった場合は、研究対象地域や研究分野に関する著書や資料を購入し、研究が継続できる環境を整え、当該研究が無事終了できるようにつとめる予定である。
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