研究課題/領域番号 |
17K03073
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研究機関 | 山口県立大学 |
研究代表者 |
渡辺 滋 山口県立大学, 国際文化学部, 准教授 (30552731)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 文字文化 / 印刷史 / 木版 / 拓本 / 史料学 / 装丁 |
研究実績の概要 |
本年度は、寺内文庫(山口県立大学)に所蔵される各種の印刷関連の史料を対象とする調査を進めた。その結果、中国・朝鮮の印刷関連史料に関する調査・検討の作業を、計画通り進めることができた。 そうした分析過程で、たとえば学界未紹介の好太王碑拓本(2種類)に関して、いずれも最初期の石灰拓本として重視される史料であることが判明した。この点に関しては、武田幸男氏ほか関連分野の複数の研究者にも直接調査していただき、史料性に関する確認を進めている最中である。また調査の過程で、寺内文庫の収蔵品のなかに朝鮮版の内賜本(国王から特別に下賜される良本)が確認されるなど複数の新発見もあり、次年度についても寺内文庫の調査を中心に進める必要性が生じているのが現状である(当初の予定では、次年度からは外部機関に調査重点を移行させていくはずであった)。
日本の印刷に関しては、次年度以降に研究を展開させる前提として、寺内文庫の収蔵品のみに止まらない調査を進めた。具体的には、中世の印刷本や近世の版木に関する調査・検討作業に手を付けた。このうち中世に関しては、寺内文庫に所蔵される中世の古版経のほか、たとえば高野版『秘蔵宝鑰』の鎌倉・室町期の版本を独自に入手し、分析作業を開始した。また近世の版本に関しては版本の現物を検討するに止まらず、実際にその本を刷った木版を複数入手することに成功するなど、複眼的な分析を進める下地が整いつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度は4年間にわたる研究の開始年度に当たるが、まず手を付けた寺内文庫の調査に関しては十分な基礎的成果が蓄積できた。とくに研究を推進する過程において、「研究実績の概要」の欄で記したように、当初予想していなかった貴重な史料を発見したり、入手したりすることが度重なるなど、次年度以降の研究の展開をより膨らませることが可能となった。 なお30年度に予定している3Dスキャナを用いた版木のデータ収集作業などに関しても、29年度のうちに各種の試行を進め、いくつかの重要な情報・経験を蓄積することに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」の欄で記したように、寺内文庫の収蔵品のなかで複数の重要な新発見があったことをふまえ、当初計画を変更して、次年度についても寺内文庫の調査を中心に進める予定である。また当初は予定していなかった内容だが、本研究を推進しつつある時期に、貴重な中世の版本を複数入手することに成功したことをふまえると、それらを対象とする研究・分析も並行して進めることが、研究成果をまとめる際に重要な意味を持つと考えられる。そこで、当初計画案に示したスケジュールを変更し、県文書館・県立図書館などの史料を対象とする本格調査に関しては31年度以降に実施することとして、30年度については29年度中の計画遂行の過程で生じた新たな課題の解決を中心に進めていきたい。 なお30年度には、木版を刷る過程の検討を進めるために、浮世絵刷の職人に依頼してワークショップなどを実施するなど、多角的な分析を進める予定になっている。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張回数・日数が、当初計画していたほどに行わなくとも十分な成果が上がったことと、学生アルバイトの作業(データ入力)が、予想よりもスムーズに進んだために予算の一部が次年度に繰り越された。繰り越し分は、「今後の推進方策」で述べたような新たに生じた課題の解決に使用することで、研究全体をスムーズに進捗させていきたい。
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