本研究では、詔勅や位記・宣命など天皇発給文書の調進を担い、古代より朝廷文書行政の中核を担う重職でありながら、本格的な研究がみられない内記と、これを輩出した東坊城家等の菅原氏諸家の実態解明を目指すことを目的として調査・研究を進めている。さらに中世における昇進制度研究の一環として、叙位・除目制度の実態の調査、貴族社会や政治形態と昇進制度との関係性について検討している。 2023年度は引き続き後三条・白河朝の除目および東坊城家の史料について検討を加えた。具体的には、①後三条天皇作成の儀式書として刊行された『明治大学図書館所蔵 三条西家本 除目書』(八木書店、2021)所収の『除秘鈔』と『無外題春除目』の記載内容について分析した。②『除秘鈔』の分析を進める中で、平安時代の除目における天皇と関白の権限について調査する必要性を認め、特に摂関期の天皇と後三条天皇との相違について分析した。さらに、③東坊城家関連史料を国文学研究所および宮内庁書陵部を訪れ、それぞれ彰考館所蔵「迎陽館書目之内史館無之分覚書 全」「東坊城家諸願伺届」「東坊城家系譜」「東坊城任長日記」等の調査を実施した。 その結果、①に関しては、知見の一部を書評として公表し、②に関しては、『勘例』『除秘鈔』『叙位除目雑々』『魚魯愚抄』『魚魯愚別録』『春記』『除目執筆抄』『経信記』などの史料から情報を博捜して、史料の残存の少ない11世紀後半の後朱雀・後冷泉朝と後三条朝の除目における天皇と関白の位置づけ・権限の変容について明らかにした。その成果の一部を論文として投稿した。③に関しては、『東坊城任長日記』の調査から、任長の明治初期の動向と同家の蔵書整理について検討するとともに、「迎陽館書目之内史館無之分覚書 全」を用いて、同家の蔵書について調査した。その結果の一部を論文として発表した。
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