研究課題/領域番号 |
17K03080
|
研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
赤澤 春彦 摂南大学, 外国語学部, 准教授 (90710559)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 陰陽道 / 陰陽師 / 吉川家文書 / 国立歴史民俗博物館 / 占い / 占術書 / 宗教テクスト / 実用知 |
研究実績の概要 |
本研究は日本社会において陰陽道的知識や技術が派生・展開する歴史的経緯を考察することを目的としている。これまで暦・年号、病、呪術を対象に検討してきたが、2019年度は占い及び占術書を取り上げて検討を進めた。一昨年度、年号や暦の問題、昨年度は病における陰陽道の対処について考察したが、いずれもそれらを行うにあたり、陰陽師は知識的、技術的根拠として家伝の典籍を保持・編纂し、それぞれ「家説」を形成して、それを「イエ」の財産として継承していったことが明らかとなった。また、それらは時代とともに変容、再構成、再生産されてゆくものであることも明らかにした。次なる課題は、こうした知識や技術が「イエ」という枠組みを超えて、どのように地域社会に展開してゆくのかという点である。この課題を考えるうえで、注目すべき史料が国立歴史民俗博物館が所蔵する吉川家文書にあり、これを分析した。同館が2018年度に新たに購入した史料の中に「十二星占写」がある。本史料は16世紀初頭に畿内で作成されたものであり、陰陽道の占術書に分類されるテクストである。様々な宗教的・呪術的「知」を取り込みながら、取捨選択や独自の解釈を織り交ぜた雑書で、こうした「知」の媒介となった畿内の宗教者のネットワークも垣間見える重要な事例として考察した。本史料の分析・考察について、日本宗教学会およびパリ大学(Université de Paris/Paris Diderot-P7)で行われた国際シンポジウム「前近代日本宗教者の実用知―テクスト・テクネ・図像―」で発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績で述べたように陰陽道の地域的派生・展開を考えるうえで、「占い」をキーワードに取り組み、畿内近国における実用的宗教知の集積、再編成、テクスト化の展開について成果を上げることができた。特に陰陽道的知識や技術が社会に広範に展開するとされる15~16世紀の動態について論じることができた意義は大きいと考える。当該期には『三国相伝陰陽カン(車+官)轄ホキ(竹+甫+皿、竹+艮+皿)内伝金烏玉兎集』(『ホキ内伝』)という著名な暦注書があるが、この書と同様の内容を備えていることは、『ホキ内伝』に記された知識が16世紀初頭段階で広く流布し、かつ形を変えて再構成されていたことを示している。すなわち、陰陽道的知識が地域社会に派生・展開する一つのモデルケースを提示できたと考える。また、担い手の問題についてもその一端を明らかにすることができた。本史料の作成者の一人は大和国箸尾極楽寺の僧であるが、京愛宕山の説を取り入れるなど、畿内近国の宗教ネットワークの中でこうした知識が集積、発信されていたことがわかった。こうしたネットワークが地域の枠組みを超えて展開する在り方については今後の課題としたい。
|
今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2020年度はこれまでの研究を総括するため以下に挙げる課題に取り組む。 まず、1点目はこれまで本研究課題で取り組んだ成果を論文としてまとめることである。この3年間で学会や研究会で発表した研究についてまとめ、すでに4本の論文を発表することが決まっている。また、今までの研究成果を含めた単著の執筆にも取り組んでいる。 2点目は陰陽道研究における今後の課題や展望をまとめることである。これまでの研究成果の踏まえ、今後取り組むべき課題について日本宗教学会で発表を予定している。 3点目は、2点目に関連し、今後の研究の基盤を固めるべく、史料の収集を行うことである。今年度の成果により、陰陽道の地域的派生・展開を考察するうえで、占術や暦注書などの宗教的実用知のテクストを分析する有効性について確認できた。本科研年度中にはすべて収集し終えることは難しいが、こうした宗教テクストを悉皆的に収集することは、当該研究を次の段階へと引き上げるためには必須の作業であると考える。
|