本申請研究は、呪符木簡を素材とした本格的研究を試み、呪符に込められた祈りや願いなど人々の心性の時代的地域的特質を検討することにより、「木に文字を記す文化」の日本的特質を明らかにしようとするものである。 2回の延長を経た最終年度令和4年度には、本研究の目的の一つ、『呪符木簡集成(稿)』を刊行した。当初計画にて予定した本集成は、釈文、図版(符ろく集成)、索引からなるものであったが、符ろくをもつ呪符木簡について、全国を探訪し写真撮影による資料収集と検討は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により断念したため、図版の収載を差し控えるなど、内容はかならずしも当初計画を充足するものではない結果となった。しかしながら、その分、梵字・異体字などについて翻刻用字を精選吟味し、釈文の高次化を図ることができた。加えて、「呪符掌攷」と題した解説を執筆し、日本における木簡初発段階から登場する呪符の歴史的展開について道筋を示すとともに、呪符にまとめられるべき木簡の「分類」を整理することで、呪符研究の大まかな枠組みを提示することに成功した点は有益であったと考える。 研究成果は、a古代の地方遺跡としては呪符木簡の出土事例が豊富な但馬の出土文字資料集成を刊行し、高精細赤外線画像を掲載したほか、呪符木簡の個別1点解説に本科研の成果を盛り込むことができた。b本研究の総括的な成果報告として『呪符木簡集成(稿)』を刊行した。c呪符を含む古代木簡の研究として、飛鳥池遺跡出土削屑の接続等再検討と再釈読の成果を公表した。呪符を含む平安時代以前の古代木簡全体をあつかった論考「日付のある木簡考」を著し、木簡の統計的研究の一手法を示した。
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