研究課題/領域番号 |
17K03090
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
安達 宏昭 東北大学, 文学研究科, 教授 (40361050)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 日本史 / 近現代史 / アジア太平洋戦争 / 地域統合 / アジア |
研究実績の概要 |
本研究は、アジア太平洋戦争中、「広域圏」である「大東亜共栄圏」の建設を図るという日本の地域統合政策の形成展開過程を、政治的側面と経済的側面を統一して把握しようとするものである。本年度の研究業績は、以下の2点である。 第1に、「大東亜」地域に対する政府の認識を示す「大東亜国土計画」について、植民地「朝鮮」・「台湾」と中国華北地域に対する研究を進めてきたが、それらの研究をまとめて比較し、共通点と相違点の分析・考察を行った。その結果、共通点として日本中心の地域統合のもと、経済自給圏の構築とそのために重化学工業化を分散配置により実現しようとする企図が読み取れる一方で、農工調整問題や人口配置への対策が「内地」と比較して不十分であることが分かった。また、相違点では植民地によって対応に差があり、中国華北地域への期待が高まっていったことが分かった。 第2に、1943年4月に外務大臣になった重光葵の外交政策である「大東亜新政策」を、これまでの研究とは異なり経済的側面から分析を行った。重光が進めた「大東亜新政策」は、陸海軍の政策と対立・妥協を繰り返し、1943年11月に東京で開催された大東亜会議で発表された大東亜共同宣言に行き着いたが、重光のもともとの構想では「大東亜共栄圏」の圏内諸民族の対等で自主的な独立や戦後の撤兵、各国による共同機構の創設を構想し主張するものであったと言われている。これに対して、重光が作成した諸書類や外務省の文書を改めて分析した結果、実際には「大東亜新政策」と「大東亜共栄圏」の経済的自給圏としての側面との整合性を担保し、さまざまな表現を使うことで、日本の指導を実質的に確保して、経済自給圏の建設を継続しようとしていたことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナウィルスの感染拡大により、調査研究は遅れた。しかし、分析課題であった「大東亜共栄圏」政策の政治外交的側面と経済的側面の統一的把握を進めることができ、一定程度、進展した。 第1に、これまで研究を進めてきた「大東亜国土計画」について、「内地」も含めた各地域の比較により、計画の全体的な特徴を明らかにすることができた。中国で開催された学会でオンラインによる報告をしたことにより、有益なコメントが得られた。 第2に、戦時期に外務大臣であった重光葵やこの時期の外務省の政策文書を、デジタル・アーカイブであるアジア歴史研究センターや国立国会図書館で収集することにより、1943年の政治外交を分析することができた。そのことにより、「大東亜共栄圏」の政治外交政策を経済的側面から検討し、実際には両者が密接に関連する事項であったことを確認することができた。 しかし、その一方で、コロナウィルスの感染拡大により、2020年9月に予定していた中国での追加調査を中止せざるを得ず、さらなる資料の収集や調査を実施することができなかった。また、同様の理由で、6月に韓国で開催予定だったシンポジウムでの研究発表や、年度末に考えていたヨーロッパでの学会発表も行うことができず、世界史のなかで位置づける議論をすることができなかった。国内においても、国立公文書館などの史料収集を十分にできなかった。 このため、全体として研究は進展したものの、コロナウィルスの感染拡大により、資料調査・収集を充分に実施できず、学会での発表も限定的になったため、当初の計画に対して遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の3点を中心に研究を推進していきたい。 第1に、進展し始めた「大東亜共栄圏」の政治外交政策に関する史料の収集と分析をさらに実施したい。1943年分については、ある程度収集することができたので、今後は1944年以降敗戦までの時期の史料を収集し、分析することに主眼を置く。ここでも外相が重光葵であったことから、重光関係文書や外務省の史料を中心に収集する。また、重光に対抗した陸海軍の史料も、防衛省防衛研究所などで収集していく。 第2に、中国華北地方の現地状況に関する史料の収集について、これまでの調査では収集しきれなかったものを、追加調査で収集したい。現状においては、海外調査ができるかどうか見通しは立たないが、コロナウィルスの感染状況が改善し、海外往来ができるようになったならば、年度内に北京市にある史料保存機関や図書館を訪問し、現地の研究者の援助を得ながら、さらなる調査を行いたい。そして、そこで得られた史料も使って、「大東亜共栄圏」政策が地域の経済社会に与えた影響を、中国華北地方を事例に分析したい。 第3に、これまで調査・分析した内容を、ヨーロッパの学会において発表し、ヨーロッパの研究者と対話や議論を行い、「大東亜共栄圏」をグローバルヒストリーのなかに位置づける作業を行いたい。そして、本研究の成果を第2次世界大戦に関する英語圏での研究に反映させていく端緒にしたいと考えている。ただ、これもコロナウィルスの感染状況によるので、オンラインによる発表になる可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、予定していた中国での調査・史料収集や韓国・ヨーロッパでの学会発表を、コロナウィルスによる新型肺炎の流行拡大により中止せざるを得なかったことと、国内の史料調査が同様の理由から十分に行うことができなかったためである。また、院生などの研究補助による資料整理も、構内への入構制限によって実施することが難しかった。 使用計画としては、コロナウィルスの感染状況が改善して海外での調査や研究発表が可能になれば、北京市での滞在費や現地での研究協力者に支払う謝金に使用したり、ヨーロッパでの学会発表の旅費に充てたりする。しかし、海外に行くことが難しい場合には、研究代表者が本研究を進めていくうえで必要となる書籍や資料集の購入費、文具費に使用する。
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