研究課題/領域番号 |
17K03090
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
安達 宏昭 東北大学, 文学研究科, 教授 (40361050)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日本史 / 近現代史 / アジア太平洋戦争 / 地域統合 / アジア |
研究実績の概要 |
本研究は、アジア太平洋戦争中、「広域圏」である「大東亜共栄圏」の建設を図るという日本の地域統合政策の形成展開過程を、政治的側面と経済的側面を統一して把握しようとするものである。本年度のコロナウィルス感染症の拡大により史料調査ができなかったため、これまで収集した資料を整理して、新たな視点の獲得を図った。研究業績は、以下の3点である。 第1に、1943年5月に「大東亜政略指導大綱」が御前会議決定されて、アジアの諸国の「独立」や「自立」、そして大東亜会議の開催が決まったが、機を一にして、「南方甲地域経済対策要綱」が大本営政府連絡会議報告されている。この政治と経済の政策転換をどのように接合し「大東亜共栄圏」政策の展開を捉えるのか、ということについて1次史料に基づいて考察した。その結果、東南アジアの「独立」「自給」と、日本の戦時経済を動かす圏域が「日満北支」の経済圏への縮小とセットになっていたことがわかり、政策の二面性を確認することができた。 第2に、1943年の大東亜会議を境にして、日本の指導下で「独立」したフィリピンやビルマなどの対日協力者の「抵抗」について、先行研究を使って整理するとともに、「大東亜共栄圏」各地で生産政策が失敗に終わっていく過程を明らかにした。特にフィリピンや華北での棉花や鉱石獲得が次第に困難になっていく原因が、単に輸送力だけでなく、日本の資材不足(虫害への対策)や抗日ゲリラの活発な活動にあったことを確認した。それは、日本側の準備不足であり、日本経済の脆弱性に基づくものであったことを再確認した。そして、これまで輸送力の減退だけに注目が集まっていた「大東亜共栄圏」の崩壊過程を、現地での実情にも基づいて新たに明らかにした。 第3に、戦前から戦後にかけての「大東亜共栄圏」の連続と非連続について、日本企業の活動を中心に、理論的な考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナウィルスの感染拡大により、調査研究は遅れた。しかし、分析課題であった「大東亜共栄圏」政策の政治外交的側面と経済的側面の統一的把握を進めることができ、一定程度、進展した。 第1に、これまで政治外交と経済政策について並立して研究がすすめられてきたが、1943年の「大東亜共栄圏」政策の転換を、接合して読み解くことにより、政策の政治外交的側面と経済的側面の統一的把握に大きく前進した。 第2に、フィリピンや華北地域での棉花栽培の実情について、以前に収集していた史料などを分析することにより、フィリピンでは開戦前から危惧されていた気象や虫害の問題に十分な準備ができないまま取り組んだことが失敗に終わったこと、華北地方では食糧増産政策との競合が生じて、域外から輸移入が失敗に終わり食糧生不足が深刻となって、棉花栽培は減少の一途をたどったこと、さらに共産党の根拠地が拡大するなかで輸送も軍の援護がないとできない状態に陥り、確保に失敗したことを分析した。 しかし、その一方で、コロナウィルスの感染拡大により、今年度も予定していた中国での追加調査を中止せざるを得ず、さらなる資料の収集や調査を実施することができなかった。また、同様の理由で、ヨーロッパでの学会発表も行うことができかった。とはいうものの、世界史のなかで位置づける議論については、オンラインでの英語によるワークショップを開催され、戦前から戦後にいたる「大東亜共栄圏」の連続と断絶について、企業進出を中心に理論的な考察を発表することができた。このため、全体として研究は進展したものの、コロナウィルスの感染拡大により、資料調査・収集を充分に実施できず、当初の計画に対して遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の3点を中心に研究を推進していきたい。 第1に、「大東亜共栄圏」の政治外交政策に関する史料の収集と分析をさらに実施したい。1943年分については、ある程度実施することができたので、今後は1944年以降敗戦までの時期の史料を収集し、分析することに主眼を置く。また、この時期の経済政策に関する史料が国立公文書館に所蔵されていることがわかったため、それらを収集して戦争末期の「大東亜共栄圏」政策の政治・経済政策の変遷を追う。 第2に、中国華北地方の現地状況に関する史料の収集について、これまでの調査では収集しきれなかったものを、華北政務委員会公報などの公刊されている史料集から収集したい。さらに、華北地域の経済状況に関する新たな史料集も公刊されているので、中国の研究者から情報を得て収集を進めたい。そこで得られた史料も使って、「大東亜共栄圏」政策が地域の経済社会に与えた影響を、中国華北地方を事例に分析したい。 第3に、これまで調査・分析した内容を、ヨーロッパの学会において発表し、ヨーロッパの研究者と対話や議論を行い、「大東亜共栄圏」をグローバルヒストリーのなかに位置づける作業を行いたい。そして、本研究の成果を第2次世界大戦に関する英語圏での研究に反映させていく端緒にしたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、予定していた中国での調査・史料収集や中国やヨーロッパでの学会発表を、コロナウィルスによる新型肺炎の流行拡大により中止せざるを得なかったことと、国内の史料調査が同様の理由から十分に行うことができなかったためである。また、院生などの研究補助による資料整理も、構内への入構制限によって実施することが難しかった。今後の使用計画としては、コロナウィルスの感染状況が改善して海外での調査や研究発表が可能になってきたので、ヨーロッパでの学会発表の旅費に充てたり、国内の史料調査を行ったりすることに使用する。また中国の史料については、公刊されているものを購入して収集する。とはいえ、海外に行くことが難しい場合には、研究代表者が本研究を進めていくうえで必要となる書籍や資料集の購入費、文具費に使用する。
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