本研究は、一般の民衆が広く印を所持するようになった近世、特に江戸時代の印を対象として、印の生産・流通の様相を明らかにするものである。また印を事例として、近世の民衆が必要とする「モノ」の動きに着目し、近世社会の特質を追究することを目的としている。 2021年度は研究期間延長後の最終年度として未見史料の調査を実施した。江戸とのつながりが検討できる史料群を対象に、茨城県境町歴史民俗資料館、群馬県立文書館にて調査を実施した。また富山県立文書館等の調査では印判師関係史料のほか板木製作関係史料にも着目して調査を行った。板木については関係する史料集や研究書を収集して、印判と板木の双方からの視点で検討を進めた。さらに雑誌『日本歴史』の特集「はんこの日本史」にて論文を公表した。百姓の印と押印について総括的に述べると共に、印判師と印の流通についての研究成果を含むことができた。 本研究を通して、特に三都(江戸・京都・大坂)の印判師を中心とした生産と流通の様相についてはおおよその把握が可能となった。近世の印判師の系譜を有する旧家の聞き取り調査を実施できたことで、印判師の活動や関係史料の有無等を確認できたこと、また中国陝西省西安市での巡検調査などで、古代から現代に至る印の存在と押印の意識等について知見を得たことも大きな成果であった。予定していた各地域での史料調査をおおむね実施できたことで、今後は各村々の印使用のあり方、各支配における文書行政のあり方を検討することも可能になったと考えている。
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