一般の民衆が広く印を所持するようになった近世の印については、研究上で意識はされつつ、また個別事例での考察はされているものの、継続的な検討が深まっていない状況であった。また印が誰によって製作されたものか、どのように流通していたのかについては、ほとんど論じられてこなかった。本研究では江戸・大坂・京都の印判師の存在に着目し、彼らが製作した印とその流通を把握できる史料を蓄積し、それぞれの地域における特質を検討することができた。百姓印のように民衆世界の中で共通に所有している「モノ」の流通を明らかにすることで、今後、生産・流通・消費の様相を総合的に検討する土台ができたと考える。
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