本研究は都市江戸が火災・水害・地震・疫病など、もろもろの災害から、どのように民を守ろうとしたのかについて、行政の取り組み、庶民のあいだに積み上げられた経験知に焦点をあて、〈減災〉という新しい概念を導入して分析することを目的とするものである。その際、客観評価が可能な数量分析の手法を用いて位置づけ直すことを方法論上の特色とする。 計画初年度の2017年度は、江戸でいちばん頻発していた火災に焦点をあてて、数量分析をおこない、武江年表』全3巻に掲載された江戸の火事記録を全て拾い上げて慶長から明治初頭に至る総計923件のデータベースを構築し、江戸の火事について基礎的な考察をおこなった。 計画2年度の2018年度は、火事に引き続いて江戸の市民を悩ませた〈病気〉を対象として選んだ。江戸の市民が日頃どんな病に悩まされていたのか、なるべく日常に近いデータを得るために、『江戸買物獨案内 全3冊』という買物ガイドブックに着目した。早稲田大学がネット上に写真版を公開しており、第2巻に197軒の薬屋が登場し、346種類の薬の広告が掲載されている。そこから、どんな病気や症状が記載されているのかを逐一拾い上げてデータベース化したのである。結果、江戸らしい病気の特徴をいくつか析出することができた。小児薬が全体の17%を占め、乳幼児が大きな罹患の危険にさらされており、かつそれをなんとか克服しようという努力が家族や業界によって重ねられていたことが読みとれる。 計画最終年度の2019年度は、「水害」と「地震」に焦点を当てて、深川の水害、あるいは安政の大地震など、いくつかの大きな事例について数量分析を試み、あわせて計画全体をとりまとめて、都市江戸の〈減災〉の努力について総括した。
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