本研究は、戦前に展開した満州農業移民が戦後に遺した社会的課題を整理分析することを大きな目標とし、そのなかでも中国残留邦人の帰国定住問題について、国家事業に先立って取り組まれた僧侶山本慈昭の業績の実態ならびに歴史的位置づけを明らかにすることを目標とした。また、その前提として、長野県阿智村の満蒙開拓平和記念館が収蔵している史資料の整理分析を行った。 史資料の整理については、研究初年度である2017年度から同館への出張を通じて、順次進めた。最終年度のコロナ禍によって計画に大きな狂いが生じたが、最低限の目標としていた史資料目録の作成については、同館職員の協力もあって、目処を付けることができた。目録の公開を通じて所蔵資料の社会的活用の方策については、個人資料の扱いや目録の順次作成への対応という課題が生じたため確立するまでには至らなかった。ただし、同館への資料の問合せへの体制は構築することができた点で一定の成果を上げることができた。 その他の研究成果としては、本研究を通じて収集・獲得した史資料や知見を基に実施した、「地域における歴史実践」(日本植民地研究会編『日本植民地研究の論点』岩波書店、2018)の発表や、研究期間中計6回にわたる市民向けの講演会が挙げられる。 なお、山本慈昭の業績に関する調査分析については、最終年度のコロナ禍によって実現することができなかったため、感染状況を見極めつつ今後とも進めていくこととしている。
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