研究課題/領域番号 |
17K03100
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
山本 英二 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (20262678)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 由緒 / 家系図 / 歴史意識 |
研究実績の概要 |
2020年度は、全国的に新型コロナウイルスが蔓延したため、予定していた史料調査を全く実施することができなかった。そこで方針を変更し、これまでの実施期間中に収集した古文書の解読と分析に研究を集中することとした。 今年度、集中的に分析した史料は、徳川林政史研究所所蔵の「信州松本城主戸田家文書」である。なかでも歴代藩主の編年記録である「御事実綱領」の読解作業を中心に進めた。特に研究テーマである近世の歴史編纂と家系図・由緒にかかわる戸田家の家格形成や家格意識について、19世紀前半の当主である戸田光年の「神龍院様御事実綱領」の読解を進めた。 読解の結果、帝鑑間詰の城主格譜代大名(6万石)である戸田家は、①徳川一門以外で最初に「松平」の名字を賜ったこと、②14歳で元服することを家例とすること、③幕府の正月の御謡始では、御次着座を許可されることを家格としており、また新たに、光年の時代には、六曜紋以外の替紋として連翹襷紋の使用を新たに認められている。連翹襷紋は公家の正親町三条家の家紋であり、同家を祖先と位置づける戸田家にとって、新たな由緒の形成を進めていたことを裏付ける重要な証拠である。また三つ葉葵紋の使用についても確認作業を進めていたことも判明した。 また当該時期の戸田家では、藩校の崇教館と儒者を総動員して、「寛政重修諸家譜」の記事の訂正を進めていたことが判明した。実際の作業は、全国各地の学者のネットワークを利用しながら、同時に全国各地での古文書調査を実施し、新たな家系図の編纂をおこない、戸田家にとっては不名誉と思われる事実の修正を試みていたこともわかった。 本来4年間で終了する予定であった本研究は、前述の事情から1年間の予算の繰越しをおこなった。次年度では、今年度実施できなかった史料調査と史料収集を実施し、研究を完了させたいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理由 本年度は、研究計画の4年目であり、昨年度に引き続いてデータ収集作業を進めることを主要な研究課題としていた。ところが新型コロナウイルスの蔓延により、史料調査は、全く実施することができなかった。そこでこれまでに収集した画像データ・目録データ・史料調書・複写史料について、分析する作業に切り替えざるをえなかった。特に徳川林政史研究所所蔵の「信州松本藩戸田家」に関する多くの基礎データの分析を進めた。 またこうした基礎作業を進める傍ら、研究テーマに関する学術論文1編・研究会報告1編・新聞取材1件を公表することができ、成果を広く社会に還元することができた。 以上の通り、本年度の進捗状況については、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、研究計画の5年目の延長年度を迎える。これまでのところ研究はやや遅れを生じているものの、おおむね進捗しており、特に問題点や研究計画の変更は見当たらない。 延長年度である今年度は、一層の史料調査を進めるとともに、研究の完遂を目指して、これまで収拾したデータの分析作業を進め、成果の公表をおこない、成果の還元を実現したい。 ただし新型コロナウイルスの終息が遅れた場合、史料調査が一部実現できない状況が懸念される。その場合は、データ分析中心に作業を切り替える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスが全国的に拡大、蔓延したため、予定していた史料調査を実施することができなかった。そのため緊急事態宣言地域での史料調査を断念した。次年度には、実施できなかった史料調査の旅費および複写史料収集のために予算の使用を予定している。
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