本年度は、当初の研究計画に基づき、家系図・由緒書・偽文書に関する史料調査を実施した。ただし本年度も、2020年から続く新型コロナウイルスの感染状況が終息しておらず、十分な史料調査が実施できたとは必ずしも言い難い。しかしそれでも①長野県松本市・松本城管理事務所、②静岡県浜松市・洞雲寺、③長野県長野市・長野市立博物館、④静岡県浜松市鈴木家&高林家、⑤東京都豊島区・徳川林政史研究所、⑥静岡県浜松市・静岡文化芸術大学、⑦長野県千曲市・長野県立歴史館において史料調査を実施することができた。 本研究では、主に信濃国松本城主松平丹波守家(戸田本宗家)における家系図編纂を中心に、由緒書形成や偽文書の贋作などについて総合的に分析・検討を加えることができた。また全国各地の史料調査を合わせて実施することにより、松平丹波守家の由緒形成と家系図編纂の特徴をより客観的に位置づけることも可能となった。 具体的には、これまで史料価値が低いとされてきた家系図や由緒書、偽文書も、その取り扱い如何によっては、歴史分析に有益な史料であることが明らかとなった。特に松平丹波守家における19世紀半ばの天保年間の家系図編纂は、世上一般や幕府に対して、丹波守のアイデンティティーを確認する重要なものであったことが明らかとなった。 こうした研究の成果については、研究期間全体を通じて複数の招待講演や論文執筆、新聞・テレビなどのメディア協力などの形で成果の一部を社会に還元することができた。
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