本研究では、これまで荒唐無稽で信憑性に欠けるとして研究対象とみなされていなかった偽文書・由緒書・家系図を利用して、近世における歴史編纂の過程を究明した。具体的には、信州松本藩主松平丹波守家(戸田本宗家)の歴史編纂事業を事例に、17世紀から19世紀に至る家系図や歴代藩主事跡録の作成目的・作成過程・作成意義について分析・検討した。特に偽文書や由緒書に比べて研究蓄積の薄い家系図の分析に力点を置いた。また伝統的な古文書学的考察に加えて、アーカイブズ学などの方法論を援用しながら、史料群と史料作成過程において見られる近世を生きた人々の歴史的言説・思考について明らかにすることができた。
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