研究課題/領域番号 |
17K03103
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
鬼嶋 淳 佐賀大学, 教育学部, 准教授 (60409612)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 日本近現代史 / 地域医療 / 地域福祉 / 医療生協 / 農村医療運動 / 日本共産党 / 高度経済成長期 |
研究実績の概要 |
第一の課題である都市近郊の事例として、埼玉県大井地域の地域医療・福祉の展開を著書にまとめた。 占領期から1950年代にかけて地域の医療状況が劣悪ななかで、日本共産党員であり医師であった大島慶一郎をはじめ大井医院に集った人々は、地域に医療を提供し続けた。財政難や反共政策の展開により、計画していた多様な運動を実現できずに、診療活動にほぼ限定された運動となったが、往診による診療活動の充実により地域からの信頼を得て、患者数は増加を続けた。1950年代半ばには医療生協という形式を選択した。 高度経済成長期になると、都市化が進展し、大井医院の診療範囲にも大規模団地が建設され、「新住民」が劇的に増加した。地域住民の医療要求も変化し、高度医療を求めた。そうしたなか大井医院は、農村地域からあがった無医地区への診療所建設の要望より、都市地区の「新住民」を対象に、より高度な医療に対応した医療機関を開設した。こうした対応は、一部の農村地区住民の信頼を失わせることになるが、財政的には安定し、これまで計画していたものの実行できなかった診療以外の地域医療・福祉の向上を求める運動(例えば、町会議員に当選して国民健康保険給付率をあげる運動や老人医療費無料化を進める運動を主導するなど)を展開することを可能とした。大井町では、敗戦後から地域で医療運動を進めてきた大井医院関係者を中心とした勢力が、1960~70年代初頭にかけて地域医療・福祉を重視する政策を主張し、保守系町長を地域福祉を充実させる政策へと転換させて、共同で「くらしといのち」を守る地域づくりを進めた。 敗戦後から1950年代までの農村医療運動の経験が、1960年代以降の地域医療・福祉を重視する担い手を育てたことを明らかにしたことで、学生運動や「革新自治体」に中心に語られきた1960年代後半の社会運動高揚期を、戦後地域の運動経験を踏まえて位置づけた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
第2の課題としていた農村地区への調査・研究が計画通りに進まなかった。史料残存状況が想定より良くなかったこと、調査の回数を確保できず、納得するまで史料調査を実施できなかったことが要因である。
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今後の研究の推進方策 |
第1の課題は達成できたので、第2の課題である農村地区の調査・分析を積極的に進める。ただし、2020年度は新型コロナウィルス感染症の流行のため、新たな史料調査を行えない可能性もある。その場合、第2の課題については、これまで収集した史料を分析して、第1の課題として取り組んだ成果と比較・検討するかたちで成果をまとめたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が学内・学外業務の多忙により、計画通りに調査出張を行えず、新しい研究対象地への調査を順調に進めることができなかった。 第1の課題は研究書を出版して成果を出したが、一方でそちらに集中したために第2の課題への取り組みが遅れて論文にまとめる時間が足りなくなった。2月以降の調査は、新型コロナウィルス感染症の流行により実施できなかった。 2020年度の計画はコロナウィルス感染症流行による社会状況によるが、今のところ、前半は、これまで収集した史料整理のための人件費、論文をまとめるための文献購入にあてる。後半は、最終調査を実施するため、旅費にあてる計画である。
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