研究課題/領域番号 |
17K03105
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
小林 啓治 京都府立大学, 文学部, 教授 (60221975)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 村報 / 町報 / 地方自治 / 戦時体制 / 総力戦 |
研究実績の概要 |
全国の町村報の残存状況について調査を進めた。年度内に調査を終えたのは北海道、青森県、秋田県、福島県、茨城県、京都府、島根県である。すべての自治体の図書館などの蔵書を検索した上で、改めて電話やメールなどで残存状況を確認した。これらの諸道府県では、残存状況は極めてよくないことが判明した。いくつかの地域で村報が保存されていることがわかったが、それについての詳細な調査は未着手である。概要を調査したのは、京都府長岡京市図書館に保存されている『神足月報』である。『長岡京市史』にはこの史料を用いた記述がある。現在、保存されているのは1935年から1941年までに発行されたものである。 個別の村報・町報の分析については、上記の『神足月報』について行った。『神足月報』は小学校の校長が編集の中心になっており、こうした形態は全国的にも特殊な事例ではないかと思われる。内容については、他府県のものとそれほど異なっているわけではないが、小学校長が編集に携わっていることから、教育関係の記事が比較的多い。ことに顕著なのは、小学生の作文の多さだろう。こうした作文は学校教育における教導に強く影響されたもので、児童の気持ちをそのまま表現しているとは言えないが、それを通じて模範的な小学生のあり方がどのようなものであったかは見えてくる。また、時折掲載される校長の訓示のような記事は、地域における公定イデオロギーの内容を示すすぐれた史料である。さらに、戦地の兵隊からの便りと小学生の作文が呼応する形で、地域に戦時体制が構築されていくさまを『神足月報』から見て取ることもできる。 『神足月報』は村内への各種情報の伝達を目的とする広報的な側面よりも、村をイデオロギー的に善導しようとする傾向の強い村報であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題として掲げた町村報の残存状況調査は、個々の自治体での確認に時間がかかったため、予定よりやや時間を要している。今後、調査の効率をあげるためには、府県の公文書館を重点的・優先的に調査し、その上で単位自治体の調査を進めるべきことが判明した。おそらく、平成30年度には当初の予定に十分に追いつくことができると思われる。 想定していたより残存状況が良くないため、その分、個々の町村報の分析に早めに着手した。『神足月報』については、ほとんど目を通したので、この課題の進捗状況は良好である。発行主体の特殊性、記事内容の類型化、公定イデオロギーの割り出し、出征兵士と慰問文などについて、概略的分析を行った。 すでに入手済みの町村報については、戦後の記事を中心に内容の検討を進めている。戦時体制の論理がどこまで継続し、どのような新しい秩序が形成されていくのか、大雑把な見通しを得ることができた。戦後の場合は、新たな課題として、町村報以外の地域メディアにも目配りする必要があることがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、未着手の府県について村報・町報の残存状況の調査を継続する。最小の行政単位の図書館などでは、歴史資料についての情報自体を得ていないところも多く、府県単位の文書館や図書館を重点的に調査する必要がある。今年度は全都道府県の3分の2までは完了することを目指す。 第2に、いくつか見つかった村報・町報について、目録上では内容が不明なので、現物を調査する。これまで発行主体については村役場、青年団、小学校長などがあることが判明している。その相違による内容の違いを明確にする。 第3に、『神足月報』の分析を進める。その際の視点は次のとおり。①『神足月報』が小学校長によって刊行された理由。②公定イデオロギーの内容の解明。訓示的な記事は、国家的事件が起こった際や年頭にしばしば掲載されているので、それらが国家公定イデオロギーをどのようになぞっているのかを明らかにすることができるはずである。③出征兵士から村に宛てられた便りと児童の作文を通じて、地域における戦時体制と戦争とを双方向的な関係としてとらえる。 第4に、できれば戦後も発行されている町村報を用いて、戦時から戦後への地域社会の持続と変容を明らかにしたい。戦後においては、町村報以外の地域メディアも数多く発刊されるため、それらと比較しながら町村報の歴史的位置を確定していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した大きな原因は、資料調査の人員を確保することが非常に困難だったこと、予想に反して残存している町村報が少なく現物調査をする余地がなかったことにある。 2018年度は資料調査人員を4月当初から確保し、調査を進めていく。また、2017年度後半にみつかった町村報の現物調査を進めていくことに次年度使用額を充当する。
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