研究課題/領域番号 |
17K03106
|
研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
菊池 慶子 (柳谷慶子) 東北学院大学, 文学部, 教授 (00258782)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 海岸林 / 海岸防災林 / クロマツ / 仙台藩 / 秋田藩 / 松葉さらい / 林政史 / 砂留め |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、近世の東北地方沿岸部にひろく防災・減災を担う海岸林が造成された事実に着目し、海岸防災林の植林と保護・育生にかかわる歴史の展開、および特質を、第一に植林の開始とその後の拡充の経緯、および植林技術の推移、第二に防災・減災に果たした役割の実態、第三に海岸集落の持続可能な暮らしとの関係性を視点に据えて、解明することである。研究方法としては、近世を中心に近代を含めた関係史料の調査・収集による検討に加え、現地の景観の読み解き、海岸林の管理と利用に関するヒヤリング調査を行うものとした。平成29年度の調査・研究の概要は以下の通りである。 1については、仙台藩領に関して、①気仙沼地域の17世紀後期に始まる植林事業を確認できたこと、②名取郡海岸域の樹林の規模を知る史料を見出したこと、③藩政時代の植林の達成度が知られる史料として「官林原表」および「皇国地誌」の記載にあたりデータを整理したことが、主要な成果である。秋田藩領については、能代市・秋田市に造成された砂防林の場所を示す海岸絵図を見出し、沼田家文書(秋田県立文書館)から砂留普請の経緯を知る史料を確認できた。植林技術に関しては、庄内藩領で育苗の施設と育苗法を知る文献を収集しているが、分析は今後の作業となる。3については、西日本の先行研究の方法に学びながら、宮城県岩沼市および仙台市宮城野区でヒヤリング調査を行い、近代以降の海岸林の利用をめぐる慣行に関して情報収集を行った。「松葉さらい」と呼ばれる慣行が1960年代まで海岸集落の日々の暮らしを支えており、その作業には地域民の秩序だった松林の利用と組合による管理の徹底があったことがわかり、藩政時代のありようを推測する材料となると考えられる。 以上は近世の藩政史・災害史のみならず、林政史や環境史にも寄与しうると思われる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に基づき、海岸林の歴史と現状、および生態系に関する関係図書・論文を国会図書館、および本学図書館で収集し、歴史資料については翻刻された史料を収める全国の自治体史を都立中央図書館・宮城県図書館・秋田県立図書館・本学図書館で収集し、一次史料として「官林原表」と地籍図など絵図類、「皇国地誌」を宮城県公文書館で、沼田家文書および秋田藩の海岸絵図類を秋田県公文書館で調査のうえ収集した。また、仙台湾沿岸地域の海岸林、および能代市「風の松原」の現場を巡見して記録撮影を行い、併せて地元の住民の聞き取り調査を実施している。 以上の作業により、上記の知見を得ることができ、その一部を県内の歴史講座、大学主催のフォーラムや講演会等で公表し、報告書に執筆した。 なお、福島県(相馬藩、磐城平藩)、岩手県(盛岡藩)の現地調査と史料収集を予定していたが、実施にいたらなかった。両県の海岸林に関する活字史料については宮城県図書館で一部を収集している。撮影と複写により入手した一次史料については整理作業が途中段階である。 以上の状況から、本研究課題は、おおむね順調に進展していると思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
課題に掲げた3点の問題を解明するうえで必要な関係研究図書・論文等の調査と収集、および史料の調査と収集を継続して進める。藩政期から近代の海岸植林の経緯に関する史料については宮城県公文書館、秋田県公文書館にまとまった史料群があり、前年度の未調査分の調査・収集を行う。また、前年度に取り掛かれなかった磐城平藩・相馬藩の関係史料について調査・収集に着手する。八戸藩・本荘藩・亀田藩の関係史料についても、現地の図書館・史料館等を中心に調査・収集を行う。藩政時代の植林場所を示す近代初頭の海岸絵図類を収集しつつあるので、これらのトレース作業、および収集史料の整理作業を、院生等を作業協力者として進める。景観調査については、前年度に引き続き宮城県内、秋田県内、山形県内、福島県内の現地を巡見し、絵図・地図にみられる記載と突き合わせて確認する。 以上の調査・検討に基づき、藩政時代から近代に至る植林の推移に加えて、海岸林の防災・減災役割を捉える読み解きを行う。さらに、地元集落と海岸林との関係については、ヒヤリング調査を重ねる必要がある。当年度の収集文献から海岸林を魚付林として注目する認識のひろがりも確認できており、集中的に資料の収集と検討に取り組む。 調査・検討に基づく考察の一部を地域の歴史講座や研究会等で公表し、論文執筆の準備も行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金は、当年度の物品費のなかで購入予定であった図書の売り切れ、および史料調査とヒヤリング調査で使用予定であった旅費について出張時間を確保できなかたことにより生じたものである。この助成金は次年度の図書購入と旅費に充当する。 収集したい海岸林に関する文献は自治体の調査報告書、および生態系分野における研究図書を含んでおり、当年度の研究のなかで全国レベルで収集する必要性を知ることになった。次年度の使用計画にこれを組み込むものとする。 また旅費についても、史料調査に加えてヒヤリング調査を増やす必要性が生じており、計画に組み込む。
|