本研究は、東北地方の沿岸部に近世期以来、近代・現代に続く防災・減災を担う海岸林の造成が進んだ歴史に着目し、①藩政期に始まる植林の背景と経緯、②植林の技術や工夫とその推移、③防災林としての海岸林の役割の検証、④保護・管理を担い海岸林を利活用した沿岸地域の暮らしの実相、以上4点を主要な観点として関係資料を収集・分析し、検討を行うことを課題としている。 最終年度である2019年度は、上記の観点に即して収集した文献・史料の整理と解読を行い、不足する文献・史料群の探索・収集を進める一方、3年間の研究成果を公表する機会として、地元の市民、林業関係者、専門研究者との議論の場をもち、併せて調査報告・研究論文の執筆を進めた。また3年間の調査・研究で収集した文献、古文書や公文書等の歴史資料、現地調査での撮影写真、研究報告用のパワーポイントなどを整理し、年度末にその一部を掲載する報告書を作成した。調査報告・研究論文の一部は当年度に刊行されたが、このほか数年以内に書籍や学会誌に掲載する予定で準備を進めている。 本研究はタイトルに示したように、対象地域を東北諸藩に定めたが、2年目の調査・研究で、関係史料の収集は先行してインフラ整備を進めていた中部・西日本地域の諸藩に拡充すべきことに気づいた。クロマツを主木とする植林政策や植林技術の導入は東北諸藩が他の地域の影響を受けている様相がみえてきたからである。④についてはとくに、仙台湾岸の一帯で「松葉さらい」と呼び、海岸林のクロマツを暮らしに利活用する慣習を、金沢藩・福岡藩・浜松藩などで、関係史料を見出し検証を進めている。このほか近代・現代で植林が拡充する背景を、仙台市宮城野区新浜に建立された愛林碑をはじめとする植林記念の石碑群を再考して、検討した。暮らしを守る森林の役割の、その多様性を追究する課題を列島沿岸部を広く視野に入れて展望したいと考えている。
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